『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、フランスの「黄色いベスト」運動とフェイスブックのアルゴリズム変更の関連性を指摘する。

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フランス政府の燃料税引き上げ方針に対し、パリ郊外や地方の市民が抗議の声を上げた「黄色いベスト」運動。その後、怒りの連鎖は仏全土に広がりましたが、今回もフェイスブック(以下、FB)がその"延焼"の一端を(図らずも)担ったようです。

2016年の米大統領選などで、ロシア介入疑惑やフェイクニュース拡散の責任を追及されたFBは2018年前半、それぞれの地元コミュニティ内の交流をより深めるようなアルゴリズムの変更を行なっています。

例えばユーザー自身が地元メディアのアカウントをフォローしたり、友達が地元のニュース記事をシェアしたりすると、そのニュースが優先的に表示される、というように。

実は、ちょうどその頃からフランスでは、無名のネット活動家らが主導する「怒りのグループ」なる地域別のコミュニティがFB内に次々と生まれ始めました。

ただ、その方向性はさまざまで、労働法改正に怒るグループもあれば、反ワクチンを推進するグループもあり(フランスは欧州でも突出して反ワクチン派が多い国です)、この時点ではまだ「混在」にとどまっていました。

その後、5月末にパリ郊外に住むアロマセラピストの女性が、署名サイトを通じてガソリン価格を下げる運動を呼びかけました。当初はまったく広がりませんでしたが、燃料価格がじわじわ上がり、10月に入って彼女が「1500人分の署名を集めたら地元ラジオ局に出演できる約束をもらった」とFBに書き込むと、一気に拡散。彼女は地元局に出演し、燃料税引き上げ反対を訴えました。

FBのアルゴリズム変更の影響が大きく出たのはここからです。彼女の主張を地元紙が記事にしたところ、同地域に住む多くのFBユーザーが賛同してシェアを続け、急速にバイラル化します。

10月12日には同地域に住むトラックドライバーが、「フランス中の道路を封鎖しよう!」と呼びかけ、3日後に署名ページが完成。その動きを見た仏全国紙が同22日、発端となったアロマセラピストのインタビュー記事を掲載すると、仏語圏に爆発的に拡散され、乱立していた「怒りのグループ」が連携を始めた―という流れです。

生活に苦しむ市民たちの声が有機的につながること自体は、極めて健全な動きです。ただ、数々の「怒りのグループ」のなかには、トンデモな陰謀論の"感染者"も多い。反ワクチン派もそうですし、「フリーメイソンからフランスを守る」と真剣に訴える集団も......。FBは、こうした主張さえも"地元の話題"としてフィードに流し込んでしまうのです。

巨大なデモの突き上げを受けた仏マクロン政権は、すでに燃料税引き上げの凍結や最低賃金の引き上げを発表しました。これは「市民の声が政治を変えた」という正の一面がある一方、トンデモ活動家たちが勢いづくという副作用もあるでしょう。

特に極右勢力にとって、こうした混乱期は大チャンス。格差社会に苦しむ人々の不満をすくい取り、移民や難民、あるいはEU官僚といった"外敵"に怒りを集中させればいい――2017年の仏大統領選で躍進した国民戦線のマリーヌ・ルペンや、メルケル首相の求心力が弱まったドイツなど周辺諸国の極右勢力はほくそ笑んでいるはず。2019年、欧州は波乱の年になるかもしれません。

●モーリー・ロバートソン(Morley Robertson)
国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。日テレ系情報番組『スッキリ』の木曜コメンテーター。ほかに『教えて!ニュースライブ 正義のミカタ』(朝日放送)、『報道ランナー』(関西テレビ)などレギュラー多数。2年半におよぶ本連載を大幅加筆・再構成した書籍『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』(集英社)が好評発売中!

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