『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、中国・習近平政権の「反イスラム路線」の危険性を指摘する。

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イスラム教を"中国化"する――。習近平(しゅうきんぺい)政権が、国内のイスラム教を中国共産党の「特色ある社会主義」の価値観に合わせるための5ヵ年計画を進めていることが明らかになりました。

近年、習政権はイスラム教への締めつけを強めています。中国には約2300万人のイスラム教徒(ムスリム)がいるといわれますが、その多くが住む新疆(しんきょう)ウイグル自治区には、「テロ予防を目的とし、過激思想の影響を受けた人々の社会復帰を手助けする」との名目で「職業技能教育訓練施設」がつくられ、国連の報告書によれば最大100万人ものウイグル人を"強制収容"。

イスラム教の教義で禁止されている豚肉やアルコールの摂取を強要されたという元収容者の証言もあります。

習政権はウイグル弾圧をずっと続けてきましたが、気になるのは、漢族ナショナリズムの一環として「反ウイグル」が「反イスラム」へと拡大しつつあることです。

中国版ツイッター「微博(ウェイボー)」などでは近年、ムスリムへのヘイトスピーチや、ムスリムが中国を"ハラル化"しようとしているといった陰謀論的な都市伝説が爆発的に広がっています。

なかには、トランプ大統領を支持するアメリカの白人至上主義者がつくった反イスラムのフェイクニュースが広くシェアされるような事例も見受けられます。

ハラル食品専用のサービスを開始すると発表した民間のフードデリバリー企業が大炎上したり、暴徒化した漢族の市民がハラル料理店の窓を叩き割るといった事件も起きています。ところが、普段は民衆の暴走を厳しく検閲する中国当局も、こうした動きに関してはあえて放置しているようです。

なぜ、習政権はイスラム敵視政策を加速させているのでしょうか? 

共産党政府は国民の一体感、指導部への忠誠心を維持するために、戦後から現在に至るまで、時代に合わせて指導方針をチューニングしてきました。毛沢東(もうたくとう)から周恩来(しゅうおんらい)の時代は革命の熱気で国民を力で統制し、外部との接触を遮断する鎖国政策でイデオロギーを煮詰めていた時代。

その後、江沢民(こうたくみん)らによるポスト89年(天安門事件)期以降は改革開放が進み、経済的発展とともに周辺諸国への圧力を強め、政府は民衆のナショナリズムをくすぐっていきます。また、怒りの矛先が自分たちに向かないよう、時に反米・反日をカードとして使いつつ、巧みに国民世論をコントロールしました。

そして、反米・反日が以前ほど有効に機能しなくなったのが現在。大多数の中国人が敵と見なせるものとして、イスラム教がスケープゴートにされつつあるのでしょう。

リベラルな社会に住む人々から見れば、どう見ても狂っている習政権の反イスラム政策。しかし、これは国内の"民意"をくみ取ったものでもあるのです(その民意を"調節"しているのも政府・指導部なわけですが......)。

今後、中国の国内外で漢族を標的としたムスリムによる報復テロでも起きようものなら、多様な言論のない中国の民意が「ムスリムは恐ろしい。さらなる弾圧が必要だ」といったサイクルに入ることは目に見えている。これほど危ない橋を渡ろうとせざるをえないほど、中国のシステムは金属疲労を起こしているということなのかもしれません。

●モーリー・ロバートソン(Morley Robertson)
国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。日テレ系情報番組『スッキリ』の木曜コメンテーター。ほかに『教えて!ニュースライブ 正義のミカタ』(朝日放送)、『報道ランナー』(関西テレビ)などレギュラー多数。2年半におよぶ本連載を大幅加筆・再構成した書籍『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』(集英社)が好評発売中!

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