第2次世界大戦後、共産圏に対する「民主主義の壁」として誕生した軍事同盟NATOが、トランプ米大統領の暴走で崩壊の危機に。この流れは遠からず東アジアにも到達し、米韓同盟、そして日米同盟にも深刻な影響が......!

『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが語る。

■NATO首脳会議で爆発したトランプ

トランプ米大統領が、NATO(北大西洋条約機構)からの離脱について複数回言及していた。それも支持者向けの"ふかし"ではなく、政権の内側で――。

ホワイトハウスの内情を知る"関係者"の生々しい証言を基に、トランプが本気でNATO脱退を考えていると指摘した米ニューヨーク・タイムズ紙の長編記事が大きな波紋を呼んでいます。

特に印象的なのが、かねてアメリカの防衛費負担が大きすぎると主張していたトランプが、昨年7月、あろうことかNATO首脳会議の場で不満を爆発させてしまったシーンです。

それは、ドイツのメルケル首相のスピーチの最中のこと。トランプはイライラした様子で席を立ち、メルケルの近くまで歩み寄り、演説を中断させて「偉大な指導者だね」と皮肉を言って、部屋を後にしたというのです。

信じられないくらい無礼な話ですが、これだけ詳細に現場の状況を証言できる"関係者"とは、政権の中枢近くにいた(あるいは、今もいる)人物しかありえません。

想像の域を出ませんが、もしかすると、昨年末に辞任したマティス前国防長官か、彼に近い人物かもしれない。マティスはNATOの重要性を理解し、トランプのストッパー役を務めてきましたから。

この報道の後、トランプは「わが国は今後も100パーセント、NATOと共にある」と語っています。しかし、マティスが辞任に追い込まれた経緯などの諸状況も含めて考えると、NATO加盟諸国が防衛費負担を増やさなければ、本当に離脱するというシナリオもありえるでしょう。

これはもちろん、欧州のNATO加盟諸国にとっても相当な衝撃です。

欧州社会の混乱は今年も収まりそうにありません。特にポーランドやハンガリー、チェコ、スロバキアなど東欧の旧共産諸国では、時計の針を戻すように差別主義が拡大。

先日も、ポーランドの都市グダニスクのリベラルな市長が、募金運動の活動中に刃物を持った男に刺殺されるという痛ましい事件が起きました。

リベラリズムに対する嫌悪が欧州で過激化した大きなきっかけは、2015年にメルケルが大規模な難民受け入れを表明し、「人権を重視する」という欧州の意思を示したこと。

この"模範的な態度"はドイツ国内のみならず、周辺国でも反リベラル・反多様性の波という反動を生みました。貧しい国にも難民受け入れを強制するのか、オレたちは見捨てられるのか――と。

とりわけ東欧諸国は、歴史的に見て自分たちの力で民主主義を勝ち取ったのではなく、旧ソ連崩壊の過程で「社会主義から手放された」国々です。

こうした社会には、議論し続けることでリベラリズムを成熟させていくプロセスがまだ足りず、排外主義などの"強い意見"が支持を得てしまいやすい―そんな傾向が色濃く表出しています。

■日米安保条約は「警備契約」になる?

このようにバックラッシュが起きている国々の反リベラル勢力を、陰に陽に支援しているのがロシアです。社会にアジテートや心理作戦を仕掛け、EUを換骨奪胎(かんこつだったい)したい。

加えて、目障りなNATOを解体できたら......。プーチン大統領はそう思い描いているでしょう。その意味で、トランプのNATO離脱発言は、デコレーションケーキの仕上げに置かれるチェリーのような役割を果たしかねません。

そして、この激震はおそらくユーラシア大陸を横断し、東アジアにも波及することになるでしょう。

最悪のシナリオは在韓米軍の撤退です。もともとトランプは、折に触れて米韓同盟の存在意義について懐疑的な発言をしています。加えて最近では、韓国の文在寅(ムンジェイン)政権がポピュリズム的に北朝鮮に接近し、日本のみならずアメリカにとっても「面倒な存在」であることをわざわざ演じているかのような動きが目立つ。

例のレーダー照射事件でも、北朝鮮の密漁船を黙認・救援していた、あるいはもっと積極的に経済制裁を破って北を支援していたなど、さまざまな疑惑が浮上しています。トランプが「税金を使うだけムダだ」と判断すれば、NATOに続き、東アジアでも在韓米軍撤退に流れる可能性は考えておく必要があります。

では、そのときトランプにとって「日米同盟」はどんな位置づけになるでしょうか?

在日米軍基地は、本質的には日本を守るというより、かつては旧ソ連から、現在は中国からアメリカを守るためのもの。だからこそ、歴代の米政権はそこに税金と兵力を投じてきました。日米安全保障条約や集団的自衛権とは、その本音をオブラートのように包むきれい事と言ってもいいでしょう。

しかし、それよりもプライオリティが高いはずのNATOでさえ「税金のムダ」だと断じてしまうトランプが、この流れをそのまま踏襲するとは思えません。

彼の中では、日米同盟も"契約"にすぎない。米韓同盟を見直すなら、日米安保条約もいったん解除して結び直す。今後は警備会社のように、支払われた金額に応じた仕事しかしない――。そんな"つり上げ工作"を考えるかもしれません。

今、永田町では憲法改正の議論が持ち上がっています。憲法9条があるから平和なんだと主張する左派の欺瞞(ぎまん)については何度も触れてきましたが、改憲派もこうした"世界的激変"を真剣に受け止めているとは思えない。

日米同盟が変容したら、国家防衛はどうなっていくのか。自衛隊はどんな任務を背負い、どんな危険にさらされるのか......。

リアルなディベートがないまま、"悲願の改憲"だけがひとり歩きすることを僕は危惧します。まずは現実を見据えること。それしかありません。

●モーリー・ロバートソン(Morley Robertson)
国際ジャーナリスト、ミュージシャン。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。『スッキリ』(日テレ系)、『報道ランナー』(関テレ)、『教えて!NEWSライブ正義のミカタ』(朝日放送)、『水曜日のニュース・ロバートソン』(BSスカパー!)などレギュラー出演多数。本連載を大幅加筆・再構成した書籍『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』(集英社)が好評発売中!

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