『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、日本人の片づけコンサルタント・近藤麻理恵さんの"こんまりメソッド"がアメリカで社会現象化する背景を語る。

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1月25日、トランプ米大統領がメキシコ国境沿いの「壁」の建設費を含まない暫定予算案に署名し、昨年末から1ヵ月以上続いた連邦政府機関の一部閉鎖状態がようやく解除されました。

支持率の急低下を受け、トランプが渋々白旗を上げた形ですが、やはり政府機関閉鎖に伴う"痛み"は甚大(じんだい)なものでした。

象徴的だったのは、連邦政府職員が寒空のなか、フードバンクの食料配給に行列をなしていたこと。これは言い換えれば、多くの連邦職員がたった1ヵ月、2ヵ月の給料未払いで食べるものに困るほど、ギリギリの生活を送っていたということです。

採用の方法なども違うので、日本の国家公務員と同列には語れませんが、とはいえ決して最低賃金クラスの給与水準ではない彼らの多くが「やっと食いつないでいた」というのは異常といわざるをえません。

米国勢調査局によると、2017年の時点で貧困生活を送っている米国民は4000万人近くにも上ります。また、資産運用系ウェブメディア『Go Banking Rates』が2016年にアメリカの成人7000人を対象に行なったアンケート調査によると、全体の約80%の人が銀行貯金額4999ドル(約55万円)以下。

1000ドル(約11万円)未満は69%、そしてゼロという人も34%います。経済状況うんぬん以前に、そもそもアメリカ人は江戸っ子以上に「宵(よい)越しの銭」を持たない、後先を考えない人々なのかもしれません。

ブラックフライデーなどでは目の色を変え、カード払い、リボ払いも躊躇(ちゅうちょ)せず、自宅のガレージは必要ないものであふれ返る。ホームパーティもするし、休みが長いのでレジャーにも行く。

社会保障は脆弱(ぜいじゃく)で医療費も高く、容易に解雇される社会なのに、後先のことを考えるよりも目の前の欲望を満たす......。こうした"アメリカ人像"が全員に当てはまるわけではないにせよ、"消費という麻薬"が蔓延(まんえん)しています。

そんなアメリカで今、社会現象化しているのが、日本人の片づけコンサルタント・近藤麻理恵さんの"こんまりメソッド"。今年に入ってNetflixでも彼女の番組が始まり、「断捨離で自堕落な生活を見直そう」というムーブメントが巻き起こっているのですが、この流行も実にアメリカらしいなと僕は感じています。

過去を振り返っても、アメリカは非常に振れ幅が激しい社会。例えば、ファストフード漬けがいきすぎたら、その反動でオーガニックやヨガ、ベジタリアンが持てはやされるなど、何かの"反動"でしばしば自己啓発的なブームがやって来ます。

エクストリームから逆側のエクストリームへ、いうなれば"新興宗教渡り鳥"のようなもの。やはりどこか福音伝道的に、劇的な物語を経て"真実に目覚める"という体質が社会に色濃く反映しているのかもしれません。

思えば、トランプブームもそうでした。アメリカは再び偉大な国になる、そのために国境に壁を造る。非常に劇的です。ただ、それが現実には起きそうもないことに、支持者たちもそろそろ気づき始めているでしょう。

そんな人々の自己啓発願望の行き着いた先が"こんまりメソッド"だった――というのはさすがに強引ですが、米社会が今、本当に学ぶべきは、断捨離のメソッドよりも「未来のことを考える」というサスティナブルな生活習慣なのだと思います。

●モーリー・ロバートソン(Morley Robertson)
国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。日テレ系情報番組『スッキリ』の木曜コメンテーター。ほかに『教えて!ニュースライブ 正義のミカタ』(朝日放送)、『報道ランナー』(関西テレビ)などレギュラー多数。2年半におよぶ本連載を大幅加筆・再構成した書籍『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』(集英社)が好評発売中!

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