『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、世界中で差別主義が広がる理由について語る。

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フランス全土で「反ユダヤ主義」の広まりが相次いで露見し、国際的な問題になっています。SNS上には反ユダヤ主義的な言説が飛び交い、ユダヤ人墓地にスワスティカ(ナチス・ドイツの象徴であるかぎ十字)が落書きされる事件も発生しました。

昨年末からフランスで続く労働者階級の「イエローベスト運動」にも反ユダヤ主義が侵食しており、一部のグループが、「過去にロスチャイルド系の金融機関に勤めていたマクロン大統領はユダヤの手先だ」などと焚(た)きつけています。

また、同国では最近、アフリカ系移民のギャングがユダヤ人をターゲットにした誘拐ビジネスを行なっていて、その背景にも「ユダヤ人は不当に儲けていて、法外な身代金も払う。不遇な自分たちはそれを奪っていい」などといった"壮大な勘違い"があるようです。

イギリスでも似たような流れがあります。先日、最大野党・労働党の下院議員7人が離党しましたが、そのうちのひとりが「労働党は反ユダヤ主義的な組織になった」と発言し、波紋を広げているのです。

もともとイギリスの左翼知識人には、「パレスチナがかわいそう」という純粋な正義感から反イスラエル的な言説に傾く傾向があります。そして、よりイデオロギーの強い人は、そこから反ユダヤ主義に"ジャンプ"してしまう。

最近では、労働党の議員がしばしば"反ユダヤのステレオタイプ"的な言説を演説に盛り込んでいるとメディアからも指摘されており、先日もある議員がツイッターで露骨なユダヤ差別発言をしたのに、党首のジェレミー・コービンは咎(とが)めることなく"黙認"しました。

金持ちのユダヤ人たちが、裏で世の中を牛耳っている――100年以上前から存在する、相当に手垢(あか)のついた陰謀論がなぜ今、再び力をつけているのでしょうか。

英仏に限らず欧米各国において、人々の心の底に"小さなユダヤ人差別"は常に存在していたと思います。自分の上司や同僚、あるいは仲間にもユダヤ人はいるし、まともな人は明確に口にはしないけれども、多くの人が実はひそかに差別心を持っている――これはアメリカの黒人差別、あるいは日本における「在日差別」にも似たところがあるかもしれません。

気の置けない仲間たちと酒を飲んでいて、「ま、あいつは●●だからな」などと周囲を見回しながら小声で言うような、あの感じです。

言語化することがはばかられる「引き出しにしまった差別」を、誰かが堂々と言うようになり、それに多くの人が酔った――これが今、世界中で差別主義が広がっている理由のひとつでしょう。永久凍土の中で凍っていたステレオタイプな差別がいろいろな理由で同時多発的に溶け始めた、とも言えるかもしれない。

この問題にわれわれはどう向き合えばいいのか。差別に対する"火消し行為"も必要かもしれませんが、一方でその消火方法はトリッキーです。過敏になりすぎて差別タブーについて考えたり、言及したりすることそのものを萎縮させることになってしまうと、「語ってはいけない真実」として、炎はますます検閲を流れて燃え盛る。

大切なのは冷静さと、ある種の達観ではないかと思います。まずは自分の中にも差別心があると認めること。そこから冷静に対処していく必要があるでしょう。

●モーリー・ロバートソン(Morley Robertson)
国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。日テレ系情報番組『スッキリ』の木曜コメンテーター。ほかに『教えて!ニュースライブ 正義のミカタ』(朝日放送)、『報道ランナー』(関西テレビ)などレギュラー多数。本連載を大幅に加筆・再構成した書籍『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』(集英社)が好評発売中!

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