『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、4月の統一地方選挙の結果に抱いた危機感について語る。

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4月の統一地方選挙の結果に、ある意味で日本の有権者の「気分」が表れていると感じたのは僕だけでしょうか。

といっても、自民党をはじめとする既存政党の勝った、負けたの話ではありません。NHK解体という極端なワンイシューで臨んだ「NHKから国民を守る党」が全国で26人当選、幸福の科学を母体とする「幸福実現党」も19人当選と躍進。

東京・港区議選ではあのマック赤坂氏が初当選し、東京・杉並区議選では暴力革命を肯定する中核派系の学生団体で活動していた経歴のある女性議員が誕生しています。これらの結果は、それぞれの主張が支持されたという以上に、端的に「既存の政治に対する不信感」の表れであるとみるのが自然でしょう。

国政で長く政権党の座にいる自民党は有権者を納得させるような長期的なビジョンを示さず、排外主義的な右派著名人とも近づく(時には利用する)。また、地方は中央以上に緩みきっており、腐敗を隠そうとすらしない。そのあけすけなエスタブリッシュメント・ポリティクスが、政治そのものへの不信感を広めていることは間違いありません。

かといって、期待を寄せられるようなリベラル政党も存在しない。立憲民主党は、2011年の東日本大震災・福島原発事故からしばらく続いた左派ポピュリズムの功罪をきちんと清算しないことには信頼を取り戻せないでしょう。

多くの有権者にとって政治=絶望、もしくは無関心――そんななかで、比較的少ない票数でも当選できる地方議会選挙では、とっぴな主張をする候補がその型破りさゆえに注目を浴びる。「なんでもいいからぶっ壊してくれる人」になんとなく期待してしまう土壌がある。

ただ、既存政治そのものに対する抗議という意味で理解はできますが、それで果たして社会がよくなるのかと考えると疑問を持たざるをえません。

自分の投票行動に責任を持たず、とにかく何かやってくれ、と丸投げした候補が当選するのは"麻薬的"に気分がいいでしょう。しかし海外に目を移せば、そうした「気分」がアメリカでトランプ大統領を生み、ヨーロッパでは極右政党を大躍進させ、ウクライナではなんと政治経験のまったくないコメディアンを大統領にしてしまったわけです。

偏った主張の政党、候補が大量に当選する状況は決して普通ではありません。しかし、それが続くと必ずどこかでノーマライズ(普通化)される。ここが恐ろしいのです。反エスタブリッシュのために異常な主張や価値観がノーマライズされることが続けば、次にやって来るのは極右であり、ナチス的な勢力です。

ヨーロッパ諸国の極右政党はここに力を注いできました。自分たちの主張が常識的に考えれば排外的で極端であることはわかりきっている。けれど、そこを「みんなが思っている本音」なんだとすり替え、染み込ませていく。気づいたときには、世の中の軸が右に移動している――。

何をそれくらいで大げさな、と思われる方もいるかもしれません。ただ、「○○以外なら誰でもいい」という投票行動には、本来なら疑うべき人々を疑わなくなるという副作用が確実にあります。こうした"横着"が蔓延(まんえん)したとき、その社会には災いが降りかかってくるでしょう。

●モーリー・ロバートソン(Morley Robertson)
国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。日テレ系情報番組『スッキリ』の木曜コメンテーター。ほかに『教えて!ニュースライブ 正義のミカタ』(朝日放送)、『報道ランナー』(関西テレビ)などレギュラー多数。本連載を大幅に加筆・再構成した書籍『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』(集英社)が好評発売中!

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