『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、ハーバード大学の「人種優遇措置」をめぐる議論について語る。

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僕もかつて通っていた米ハーバード大学が「アジア系米国人受験生を差別的に扱っている」として訴えられた裁判で、マサチューセッツ州連邦地裁は「差別はない」との判決を下しました。

原告の「公正な受験を目指す学生団体(Students For Fair Admissions=SFFA)」は、大学が"個人の属性"を基準とし、黒人、ヒスパニック、白人の志願者を、同等の成績のアジア系学生より有利に扱っていると主張していました。

裁判で明らかにされたハーバード大の内部試算によると、仮に「大学進学適性試験」(SAT)の成績だけで選ぶとすれば入学者の43%がアジア系学生となるが、現実には入学者のうち23%程度にとどまっているとのこと。

この数字だけを見ると、確かに偏った選考が行なわれているようにも思えますが、大学側は試験の点数だけでなく、志望者のすべての要素から柔軟に判定していると主張しています。

僕の経験からいっても、親がかりで長時間・長期間の受験勉強をするアジア系学生は筆記試験に異常なほど強い。SATだけなら半分近くがアジア系になるとの数字も納得できます。

それでも"総合判断"により多様性を確保し、学内での議論の幅やその後の伸びしろを重視することこそがハーバード大の大きな強みともいえるわけですが、その判断がフェアかどうかが争われたわけです。

この裁判の焦点はアファーマティブ・アクションの是非です。アファーマティブ・アクションとは、例えば米国内なら黒人やヒスパニック、あるいは女性など社会的・経済的弱者を制度的に優遇する措置。

ハーバード大はその原則に基づき、数十年間に及び人種的マイノリティを入学判定で優遇してきました。教育機会に恵まれない人々に"下駄"を履かせ、チャンスを与えることで社会的可動性を加速させようとの考えです。

アファーマティブ・アクションが制度として認知された1950年代~60年代以来、米社会には弱者を救おうというキリスト教的な精神が、リベラルのみならず白人保守層にもずっとあったように思います。

しかし、2000年代には「テロとの戦い」によるムスリムへの嫌悪と恐怖心が社会に広まるとともに、グローバリズムの拡大で白人中産階級が没落していきました。その結果、多くの白人たちにアファーマティブ・アクションを許容する余裕がなくなり、「自分たちが割を食う」制度という認識になってしまいました。

今回の裁判で原告側の代表を務める白人保守系活動家のエドワード・ブラム氏は、約10年前にもテキサス大学を相手に同種の裁判を仕掛けた人物でした(当時も敗訴)。

今回は「アジア系学生への差別」というテーマを隠れみのとして、「アファーマティブ・アクションは白人に対する"逆差別"だ」という主張の拡大を狙ったとみるべきでしょう。

圧倒的に白人優位だった時代は、アファーマティブ・アクションをめぐる議論は極めてわかりやすいものでした。ところが現在のように"社会の勝ち組"の属性が多様化してくると、何が公正かという判断は確かに難しくなる。

グローバリズムで没落した白人こそが社会的弱者だ、非白人は不正に優遇されている――そんな反転した被害者意識は今後も大きくなっていくのかもしれません。

●モーリー・ロバートソン(Morley Robertson)
国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。日テレ系情報番組『スッキリ』の木曜コメンテーター。ほかに『報道ランナー』(関西テレビ)、『水曜日のニュース・ロバートソン』(BSスカパー!)などレギュラー多数。本連載を大幅に加筆・再構成した書籍『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』(集英社)が好評発売中!

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