『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、米メディアをにぎわす「ウクライナ疑惑」について解説する。

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米トランプ大統領がウクライナのゼレンスキー大統領に対し、来年の米大統領選挙のライバルである民主党のバイデン前副大統領とその息子の汚職疑惑について調査しろと圧力をかけた――。

そんな「ウクライナ疑惑」が米メディアを連日にぎわせており、 "Stupid Watergate(バカなウォーターゲート事件)"という造語も飛び交っています。

2016年の米大統領選でロシアの介入を利用したとされる「ロシア疑惑」など、スキャンダルが続けざまに発覚するトランプ大統領の状況は、ニクソン元大統領を辞任に追い込んだ本家「ウォーターゲート事件」の流れ―敵陣営に対する工作、疑惑のもみ消し、司法妨害、それらも実らず最後は大統領弾劾発議で辞任――と確かに似ている部分もあります。

ただ、その内容は本家ウォーターゲートよりも露骨かつお粗末なもので、まさに"stupid"という形容は言い得て妙だと思います。現職大統領が、政敵に不利な情報を流すよう外国政府に依頼したというウクライナ疑惑が真実であれば、トランプ大統領に対する弾劾の発議は現実味を帯びてくるでしょう。

ただ、ウォーターゲート事件当時と現在の状況とで決定的に違うのは、ニクソン元大統領があくまでも共和党の本流に位置する政治家だったのに対し、トランプ大統領はもともと"アウトサイダー"であり、彼本人、政権、支持層に「常識」や「事実」が通用しないことです。

例えば、トランプ大統領にはFOXニュースというお抱えの右派メディア、言い換えれば"究極のプロパガンダ機関"があります。トランプ政権の政敵にとって不利益な情報であれば、程度の低い陰謀論でも喜々として報道し、支持層はそれを熱く信じる。これまで何度も繰り返されてきた構図です。

ニクソン元大統領は最終的に音声データという「事実」を突きつけられ、白旗を上げざるをえませんでしたが、現代の技術水準でいえば、それさえも「捏造(ねつぞう)されたデータだ」と言い張ることができる。トランプ大統領にとって致命傷にはならないでしょう。

そもそも、バイデン親子の汚職疑惑の"ネタ元"となっているのは極右メディア『ブライトバート』のピーター・シュバイツァー上級総合編集者が2018年に出したトンデモ本で、実際には確たる証拠は出てきていません。

ところが、その内容をFOXニュースの人気司会者ショーン・ハニティ氏が番組内で熱心に取り上げ続け、あろうことかトランプ自身までもがそれをツイッターなどで喧伝(けんでん)することで、今やトランプ支持層の間では「真実」と化してしまっている。

この"マッチポンプ感"はニクソン時代にはなかったものです(実は、ニクソン元大統領もお抱えメディアを持つという構想だけは温めていたのですが)。

アメリカのリベラルメディアは、保守陣営のこうしたスタンスを小バカにし続けています。しかし、その態度こそがトランプ支持層をより強く結束させている。

ウクライナ疑惑でトランプ政権はついに終わる――リベラルは希望的観測込みでそう騒いでいますが、トランプ陣営がこの危機を乗り越えてしまう可能性も高く、そうなれば大統領選に向けてむしろ勢いづくことになります。まだまだ情勢は予断を許しません。

●モーリー・ロバートソン(Morley Robertson)
国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。日テレ系情報番組『スッキリ』の木曜コメンテーター。ほかに『報道ランナー』(関西テレビ)、『水曜日のニュース・ロバートソン』(BSスカパー!)などレギュラー多数。本連載を大幅に加筆・再構成した書籍『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』(集英社)が好評発売中!

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