『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、原文と異なる印象を読者に与える可能性のある翻訳記事について語る。
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海外メディアは日本をどう見ているか――日本人が大好きな報道の切り口ですが、外国語の記事を翻訳した日本語記事は、しばしば原文と異なる印象を読者に与えます。
明らかな誤訳はともかく、単語の微妙なニュアンスを変える、一部を訳さない......といった形でコンテクスト(文脈)を歪(ゆが)めた翻訳記事がそのまま流通していることは珍しくありません。
最近、僕が気になった記事のひとつが、『ニューズウィーク日本版』に掲載された「トランプがマイナス金利にご執心!? ――日本はトクしていると勘違い?」という記事。
原文は、米外交メディア『フォーリン・ポリシー』にウィリアム・スポサトというコラムニストが書いたものですが、英語の原文と翻訳記事とを読み比べてみると、(特に日本に関する記述については)読後感はかなり違うものになっています。
記事の主要テーマは、トランプ米大統領が米FRB(連邦準備制度理事会)に対して「アメリカも日本のようにやればいい」と金利引き下げによるドル安誘導を強く求め、それに反対するFRB議長を「bonehead(まぬけ)」などと批判していることです。
これに関連して、原文記事では日本のマイナス金利政策の問題点を相当強い口調でこき下ろしているのですが、日本語の翻訳記事ではそのトーンがかなり弱められています。
例えば、原文には「Fantasy World(ウソの世界、おとぎ話の世界)」という痛烈な表現があり、これは「お花畑」より強いトーンで、「おまえら何を考えているんだ」に近いニュアンスです。
しかし、日本語記事ではそれを「経済ディストピア」というかなり柔らかい言葉で訳した結果、原文の「どうしようもない日本の金利政策をまねしてどうする」というコンテクストが大きく変わってしまっているんです。
ただし、ここが微妙なところで、これは単語ごとの訳としては間違っているわけではありません。かつて僕も英語記事の翻訳業務に携わったことがあり、その経験から言うと、巧みな技を使った"作為"を感じます。それは何かといえば、日本の読者への配慮。
もっと言えば、「日本は世界に一目置かれ、尊敬されている」と思いたい読者、さらに踏み込めば「日本は素晴らしい」という話を読みたい読者に対する配慮です。
韓国のGSOMIA破棄騒動でも似たような傾向がありました。「米政界全体が韓国にカンカン」「非難の大合唱」といったニュアンスの翻訳記事がいくつも流通しましたが、はっきり言って現在の米政府にとって対韓・対日関係の優先順位は低く、「韓国非難の大合唱」という実態はありません(「トランプは韓国の問題を見誤っている」という批判はありましたが)。
これも、「アメリカに韓国をこらしめてほしい」という日本の読者の"願望"に歩み寄った書き方なのではないかと考えています。
今回は右派への"配慮"が透けて見える例を挙げましたが、もちろん逆のパターン――日本の政権を批判したい左派メディアが、海外の記事を都合よく翻訳し、利用するケースも多々あります。
問題は、以前はタブロイドの専売特許だったこのような手法が、主要メディアにまで蔓延(まんえん)しつつあること。この潮流がある限り、僕の仕事はなくならない......というのは、あまり笑えない冗談です。
●モーリー・ロバートソン(Morley Robertson)
国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。日テレ系情報番組『スッキリ』の木曜コメンテーター。ほかに『報道ランナー』(関西テレビ)、『水曜日のニュース・ロバートソン』(BSスカパー!)などレギュラー多数。本連載を大幅に加筆・再構成した書籍『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』(集英社)が好評発売中!!!