『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、現代社会の「コンセンサス・ロス」について語る。

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スター歌手テイラー・スウィフトと大物音楽マネジャーのスクーター・ブラウン氏の対立が米音楽業界を騒がせました。

今年6月にテイラーの過去楽曲の原盤権を獲得したスクーター氏に対し、テイラー側が「自由に曲を歌えなくなった」と猛反発し、SNSにファンを焚きつけるような投稿をすると、最終的には一部のファンがスクーター氏の家族へ複数の殺害予告を送るまでに騒ぎが発展してしまったのです。

当初、メディアを含む世間には明らかにテイラー側を応援するような雰囲気がありましたが、さまざまな情報が出てくるにつれ、「そう単純な問題ではなさそうだ」と困惑の色が広がりました。

特に、テイラー自身が忌(い)み嫌うトランプ米大統領と同じようなやり方(SNSでの過激な煽動)でファン(支持者)を焚きつけたことは、なんともいえない後味の悪さを残す結果となりました。

ひと昔前なら、おそらく双方が大手メディアの取材を受け、(良くも悪くも)プロによる編集を経て情報が表に出たでしょう。ゴシップメディアが場外乱闘を繰り広げたとしても、市民の側に「報道」と「ゴシップ」を分ける心理が働いたはずです。

しかし、今やこうした争いの当事者は、都合のいい主張をSNSなどでいくらでも発信できる。そして、それが正しいかどうか、偏っているかいないかという判断は極めて難しい。情報のチャンネルが圧倒的に増え、情報を正しく咀嚼(そしゃく)することが困難な時代になったともいえます。

今回の件は"芸能ニュース"ですが、政治にも同じような構図があります。あらゆる議論とそれに対する反論、真偽不明の情報......その濁流に呑まれた社会は、民主主義において極めて重要な「何が一番マシなのか」という判断を下す力を失いつつある。

僕は最近これを「コンセンサス・ロス」と呼んでいますが、社会的な合意形成が成立しづらくなっていることは間違いありません。

そして、日本の安倍政権が目指す憲法改正を阻む最大の障壁も、もしかしたらこの「コンセンサス・ロス」なのかもしれません。

近年、世界で台頭する政治家の多くは、「もはや社会のコンセンサスは取れない」ことを前提とし、過激な主張で"51%"を取りにいこうとするポピュリストです。

一方、安倍首相はどうも昭和型のコンセンサス・ビルド(世間の機運醸成)でふんわりと"愛国の空気"を定着させたがっているように思えますが、今の時代、それは望み薄でしょう。

例えば2020年の東京五輪で日本人選手が大活躍し、その直後に韓国がなんらかの"粗相"をし......といった具合に、あらゆる愛国心のピースが出そろってナショナリズムが最高潮に達したとしても、それは「瞬間風速」でしかない。

「安倍首相が一番マシだ」という現状の手法では、消極的支持を集めて衆院選に勝つことはできても、改憲というドラスティックな変革を起こすことは難しいのです。

かつてケネディ米大統領は、宇宙開発の進展を公約に掲げて国民の意識をある程度統合することに成功しました。

しかし、このような文脈では、今や政治は前に進まない。そんな時代にポピュリズム以外の"まともな選択肢"をどうつくるのか――これは人類が2020年代に積み残した宿題となるのかもしれません。

●モーリー・ロバートソン(Morley Robertson)
国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。日テレ系情報番組『スッキリ』の木曜コメンテーター。ほかに『報道ランナー』(関西テレビ)、『水曜日のニュース・ロバートソン』(BSスカパー!)などレギュラー多数。本連載を大幅に加筆・再構成した書籍『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』(集英社)が好評発売中!

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