米トランプ政権がイランの英雄をドローン攻撃で爆殺。それに対し、イランは米軍基地をミサイルで攻撃――。開戦カウントダウンかと思われた中東情勢は、いったん小康状態を取り戻した。強気の姿勢を崩さないトランプ大統領だが、この一件で意外な"地雷"を国内に抱えることになった?

『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが解説する。

■米の"強い反撃"はイランにとって予想外

ひとまず、当面のアメリカvsイラン開戦は回避へ――。2020年代の国際社会は、「本当は戦争したくないもの同士」の壮大なチキンレースを世界中が固唾(かたず)をのんで見守るという幕開けでした。

ウクライナ航空機撃墜問題など、まだ情勢は予断を許しませんが、ここで米イラン関係に関する重要なポイントをまとめておきたいと思います。

近年、イランは米軍を中東地域から追い出すべく、支援する民兵組織などを通じていやがらせを繰り返してきました。昨年末に実行されたイラク国内の米軍基地への攻撃や、在イラク米大使館への大規模デモもその一環です。

こうした民兵らの行動を事実上指揮していたのが、1月3日に米軍無人機の空爆で殺害されたイラン革命防衛隊コッズ部隊のカセム・ソレイマニ司令官でした。イラクのフセイン政権の崩壊後、イランがイラクへの影響力を強める過程でさまざまな工作を取り仕切った人物でもあります。

彼はイランの最高指導者ハメネイ師の子飼いで、イランでは英雄視されていた一方、イラクやシリアで一般市民を含む多くのスンニ派の人々の虐殺を指揮、あるいはサポートしてきた張本人でもあった(イランはシーア派国家)。米軍だけでなく、イラクやシリアのスンニ派住民にとっては憎むべき存在でした。

とはいえ、イランからすれば今回のトランプ米大統領による"強めの反撃"=ソレイマニ殺害は想定外だったはずです。トランプは昨年秋にシリア撤退を決め、イラクからの撤退をも示唆していた。

ここで追い打ちをかければ、イランからイラク、シリア、レバノン南部までつながる「シーア派の三日月地帯」が手中に入る―イラン側にはそんな見立てもあったでしょう。

ところが、そこでアメリカに対するいやがらせを強めたら、突然、英雄ソレイマニが殺害されてしまった。それまではお互いに力を加減して軽くビンタし合っていたのに、いきなり鼻頭(はながしら)を拳(こぶし)で思い切り殴られたようなものです。これで一気にトーンが変わりました。

怒り狂うイラン国民を収めるために、最高指導者ハメネイ師は"強めの報復"を断行するしかありません。しかし、イランの軍事力はアメリカと直接対峙(たいじ)できるレベルになく、同盟国もほとんどない。口先ではイラン擁護を表明した中国やロシアも、実際は慎重に推移を見守っています。

そこで選択されたのが、イラクの米軍駐留基地に弾道ミサイルを撃ち込むことでした。―決して全面戦争にならないように、しかし"派手な攻撃"に見えるように。

精いっぱいかつギリギリの報復だったと思います。アメリカもそれを「イランは戦争を望んでいない」というシグナルと受け止め、いったん双方の報復合戦は小康状態となりました。

■徴兵関連サイトはアクセス集中でパンク

ただしトランプ政権は、イランへの圧力を強めると明言しています。大統領自身の弾劾(だんがい)危機という国内問題から世論の目をそらすために、イランは"好都合な悪玉"だからです。

一定年齢以上の米国民の間では、1979年の在イラン米大使館人質事件や、83年に241名の米兵らが死亡したベイルート米海兵隊兵舎爆破事件から"悪の帝国イラン"のイメージが今も根強い。この層は、トランプ政権の熱心な支持層と重なります。

また、イラン叩きは野党・民主党への当てこすりにもなります。悪玉イランをのさばらせたのは民主党のオバマ政権で、それを退治するのがトランプだ――と。

議会への事前通告なしでソレイマニ殺害を決行したことは民主党からすれば暴挙ですが、トランプ支持層からは「蚊帳(かや)の外に置かれた弱々しい民主党と、強い指導者トランプ」という構図に見える。トランプは今秋の大統領選挙直前まで、本格的な戦争に至らない程度にイランとの緊張感を保ちたいというのが本音でしょう。

ただし、そんなトランプの思惑どおりに事が運ぶかどうかはわかりません。ひとつ目の理由は、言うまでもなく戦争は偶発的に起こりうるからです。米イラン両政府がエスカレートを望まずとも、例えばイランの"手下"の攻撃で米国民に犠牲が出るようなことがあれば、その先は何が起きてもおかしくありません。

もうひとつの理由は、アメリカの若い世代の動きです。今回、SNS上では「第3次世界大戦」を意味するハッシュタグが沸騰し、ネット検索の上位にも徴兵制度に関するワードが急増。有事の際に米国民の徴兵を担う「連邦選抜徴兵登録庁」の公式サイトは、アクセス急増のため一時ダウンしました。

12~25歳の米国人男性は、同庁に自らの最新情報を通知することが義務づけられているのですが、今回の件で自分も戦争に駆り出されるのではないかと不安に思った若者がそれだけ多かったということです。

今後、情勢が再び不安定化すれば、「トランプ再選のための戦争はごめんだ」と、若い世代が雪崩を打って"覚醒"する可能性もある。戦争か平和か―普段は実感のない2択にリアリティが加わったとき、今まで政治に興味がなかった層、不満を言いながらも「どうせ変わらない」と選挙に行かなかった層の意識はいや応なく変わるでしょう。

そこに「子供や孫を戦地に送りたくない」という世代の人々まで加われば、かつてのベトナム反戦運動のような現象が起きてもおかしくありません。トランプはイラン問題を追い風とするつもりなのでしょうが、逆に大きな地雷を抱えることになったのかもしれません。

●モーリー・ロバートソン(Morley Robertson)
国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。『スッキリ』(日テレ系)、『報道ランナー』(関テレ)、『水曜日のニュース・ロバートソン』(BSスカパー!)『Morley Robertson Show』(Block.FM)などレギュラー出演多数。2年半に及ぶ本連載を大幅加筆・再構成した書籍『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』(集英社)が好評発売中!

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