『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、アメリカ人の"税嫌い"の原因について考察する。

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昨年6月、投資家のジョージ・ソロス氏やフェイスブック共同創設者のクリス・ヒューズ氏、ディズニー共同創業者の孫娘であるアビゲイル・ディズニー氏らアメリカの超富裕層19人が、「裕福なアメリカ人にもっと課税することは公平で、かつ愛国的なことだ」という公開書簡を発表しました。

なかでもディズニー氏は、"愛国的ミリオネアクラブ"という団体にも所属し、巨大企業や超富裕層がタックスヘイブンを利用して税から逃れている世界の現状を強く批判しています。

しかし前回のこのコラム「スーパーリッチによる富の独占を牽引(けんいん)するアメリカ人の『税嫌い』」で述べたとおり、グローバルに広がる経済格差の構造を牽引してきたアメリカでは、富裕層のみならず中産階級や貧困層に至るまで、"税嫌い"の体質が根強く存在します。

社会インフラや公共サービスが不十分でも、高い税金を取られるよりマシだ――。世界恐慌後の1930年代、一時的にニューディール政策などで税負担を増やし、社会保障や公共事業を推進したこともありましたが、基本的には建国以来、アメリカ人の「税金を払いたくない」というマインドは一貫しています。

歴史家のロビン・アインホーン氏は、アメリカ人の"税嫌い"は奴隷制度に端を発すると指摘しています。

18世紀後半の独立戦争前夜、アメリカでは「代表なくして課税なし」というスローガンが叫ばれました。宗主国イギリスに税を課せられる一方、自分たちで選んだ代議士を英議会へ送ることさえ許されないことに対する憤りです。

そのイギリスから1776年に独立を果たし、全米13州(当時)の税負担について議論する際、北部の州と南部の州で意見が分かれたのが「奴隷の扱い」でした。「負担は人口に比例するべき」とする北部に対し、南部は「黒人奴隷を同じようにカウントするのはフェアではない」と反論したのです。

当時、北部では黒人奴隷の人口比率が4%。一方、南部では37%に上りました。南部の奴隷オーナーたちの間では、「奴隷を持たない北部の人間が、課税によって奴隷制を弱体化させ、廃止に追い込もうとしている」という陰謀論も生まれたそうです。

結局、当初の税制は、「黒人奴隷は"普通の国民"の5分の3としてカウントする」という玉虫色の制度となりました。すべての人は平等と宣言したはずの議会が、明らかに歪(ゆが)んだルールを認めてしまったのです。

そして、いつしか南部の実力者たる奴隷オーナーたちは「奴隷制を脅やかすことは建国の精神に反する」という二枚舌の理論を展開し、政治家もそれを追認。皮肉なことに、これが現在まで続くアメリカの「独立独歩」「税より自助」「小さな政府」というアイデンティティの源流になっているというわけです。

19世紀中頃の南北戦争を経て、ようやく奴隷制度は廃止となりましたが、21世紀になると、今度はグローバル資本主義に最適化した大資本家たちが社会を牛耳り、富裕層への税負担を減らすためのロビー活動とプロパガンダを展開している――そんな見方もできると思います。

冒頭のような極めてまっとうな提言にも、現段階では多くの米国民が耳を傾けているとは言い難い状況ですが、選挙を通じて米社会に巣食う"税嫌い"という病理が克服される日は果たして訪れるのでしょうか。

●モーリー・ロバートソン(Morley Robertson)
国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。『スッキリ』(日テレ系)、『報道ランナー』(関テレ)、『水曜日のニュース・ロバートソン』(BSスカパー!)、『Morley Robertson Show』(Block.FM)などレギュラー出演多数。2年半に及ぶ本連載を大幅加筆・再構成した書籍『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』(集英社)が好評発売中!

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