『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソン新型コロナウイルスにおける政府の情報発信不足を批判する。

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新型コロナウイルスによるパニックが、ある面では「3・11」直後の状況と似てきたように思います。

共通するのは政府や担当省庁(今回は厚生労働省)が適切な情報を発信できず、国内外で疑心暗鬼が広がったこと。そして、飛び交う情報の一部は完全にデマや陰謀論の類いであるにもかかわらず、真偽が検証されないまま一定の人々の間で"事実"として定着してしまったことです。

確定的な影響がはっきりとわからない部分もあった放射能と、今回のコロナウイルスとを単純に比較することはできませんが、人々が"見えない何か"におびえるという構造は同じでしょう。

そのひとつの例が、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」号の一件です。船内での危機対応の是非はいずれ検証されていくでしょうが、リスクコミュニケーションの部分に絞っていえば、日本政府、もっと言えば日本社会は3・11から何も学べなかったのだと言わざるをえません。

2011年当時の混乱を「民主党政権だからダメだった」と言う人もいますが、今回の対応を見る限り、民主党だろうが自民党だろうが、やっぱりダメだったのでしょう。

特に海外に対しては、厚労省がウェブサイトに英語情報を出してはいますが、これが実に不自然な......はっきり言えば、公的なものとは思えない稚拙な文章でした。これだけ世界が注目している感染症について、英語で正しい情報を発信することすらできないのです。

その結果、岩田健太郎医師がYouTubeにアップした告発動画(現在は削除済み)において発せられた「第2の武漢」「シエラレオネよりひどい」といった"飛ばし気味"のワードが海外メディアでひとり歩きし、「日本政府は隠蔽(いんぺい)体質である」というイメージがより強まってしまいました。

念のため申し添えれば、岩田医師はあくまでも感染症専門家として「船内の状況が劣悪だった」と体制の不備を指摘したわけですが、海外では「"日本"が感染を広めている」というふうに、微妙にニュアンスを変えた報じ方が少なくありませんでした。

そして、それがいくつかの日本の特殊性―例えば、「日本では熱が出ても会社を休めない」「そんな人が満員電車に乗って出勤している」といった話と絡み合い、雪だるま式に「日本=第2の武漢」という構図が出来上がっていくのです。

それでも、日本政府はそうした報道を「事実ではない」と弱々しく否定するだけ。おそらく、メディアや社会とまともにコミュニケーションを取れていないことの危険性が根本的に理解されていないのでしょう。

この不十分なリスクコミュニケーションのせいもあって、海外の一部では「日本=感染エリア」という差別が定着しつつあるのですが......。

ヘタをすれば自分たちも被害に遭ってしまう――そんな恐怖心に襲われたとき、大衆はスケープゴートを求めます。実際、すでに欧米(特に欧州の一部)では「東洋人」全般がその対象となってしまっている。

当初は中国国内で武漢の人々が差別され、次に日本で中国人が差別され、そして欧米で東洋人が差別される......。3・11後の"放射能パニック"を経験した日本こそ、悪しき連鎖を断ち切るべく、率先して冷静さを世界へと発信できればいいのですが。

●モーリー・ロバートソン(Morley Robertson)
国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。『スッキリ』(日テレ系)、『報道ランナー』(関テレ)、『水曜日のニュース・ロバートソン』(BSスカパー!)、『Morley Robertson Show』(Block.FM)などレギュラー出演多数。2年半に及ぶ本連載を大幅加筆・再構成した書籍『『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』(集英社)が好評発売中!

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