『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、新型コロナウイルスで可視化された現代社会の脆弱性について語る。

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3月12日時点で、新型コロナウイルスの感染者は世界100ヵ国以上で確認され、WHO(世界保健機関)はついに「パンデミック(世界的流行)宣言」に踏み切りました。

今回の騒動で、現代社会の脆弱(ぜいじゃく)性がはっきりと可視化されたように思います。まず、誰もが「情報」にのみ込まれてしまった。3・11直後の日本のように、世界中で陰謀論やデマを含めたさまざまな情報の波に人々がさらされ、不安や恐怖が過剰なまでに共有されてしまいました。

さらに、世界の隅々まで経済的な相互依存の構図が広がっているため、何か問題が起きたときに「そこだけを大胆に切り離す」ことができない。これも感染を拡大させた一因でした。中国という世界最大のサプライヤーから感染が始まったことも、それに輪をかけたといえます。

今回の新型コロナウイルスは、不幸にもこの現代社会にマッチした性質を持っていました。それなりに感染力は高いけれども致死率は低く、人によってはかなり軽症だったり、あるいは症状が現れない"不顕性(ふけんせい)感染"だったりする。そのため、封じ込めが極めて難しいのです。

2月末から3月初めにかけて特に感染者や死者が激増したのが、中東の大国イランです。イランを起点に中東の周辺国や、欧州のエストニアなどにまでウイルスが拡散していますが、これはイランが国際社会から経済制裁を受けていることと無関係ではありません。

通商の大動脈を制裁によって絶たれたイランは、周辺国との間に多くの細い血管をつなぎ、少しずつ栄養をもらうしかない。システマチックな大規模ビジネスではなく、人を介した"小さな通商"を積み重ねざるをえない状況が、人から人へとウイルスが広がる手助けになってしまっていると考えられます。

一方、米トランプ政権は、新型ウイルス対策のトップにペンス副大統領を据えました。医療の専門知識を持っているわけでもなく、イデオロギーとキリスト教福音派の教義を優先する政治家であるペンスを選んだということは、トランプ大統領は本気でウイルスを封じ込めるよりも、「見ないふりをする」ほうにかじを切りたいのかもしれません。

そして、これ以上の経済的なダメージを避けたい中国では、しばらく止めていた製造ラインを再開する動きが出始めています。感染症も怖いけれど、背に腹は代えられない――そのような"綱渡り"をする中国を批判する権利が誰にあるでしょうか。

中国の安い労働力、割安な原価に、グローバリズムは長らく支えられてきた。われわれはそれに依存していた。その結果として今、世界中に降りかかった新型ウイルスの脅威は、もともとシステムに組み込まれていたリスクだったのです。

現状の深刻さからあえて距離を置いた物言いをさせてもらうなら、現代の社会システムはこの新しいウイルスに対して、あらゆる意味で"免疫"を持っていなかったのです。

今起きていることは、自分たちの日常に端を発している――そのことに多くの人が気づければ、この騒動の先にあるさまざまな議論も少しは実のあるものになるかもしれません。

●モーリー・ロバートソン(Morley Robertson)
国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。『スッキリ』(日テレ系)、『報道ランナー』(関テレ)、『水曜日のニュース・ロバートソン』(BSスカパー!)、『Morley Robertson Show』(Block.FM)などレギュラー出演多数。2年半に及ぶ本連載を大幅加筆・再構成した書籍『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』(集英社)が好評発売中!

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