『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが今秋の米大統領選挙での民主党の公認指名争いについて語る。
(この記事は3月23日発売『週刊プレイボーイ14号』に掲載されたものです)
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今秋の米大統領選挙で「打倒トランプ」を目指す民主党の公認指名争いは、序盤こそバーニー・サンダース上院議員の勢いが目立ったものの、3月初旬のスーパーチューズデー前後にジョー・バイデン元副大統領が大きく抜け出しました。
本号発売の頃にはまた状況が動いている可能性もありますが、ここまでの流れについて私見を綴つづりたいと思います。
格差是正を声高に訴えるサンダースを支持するのは主に若者、とりわけ高等教育を受けた(あるいは現在受けている)白人の若者層です。彼らは親世代が当然のように享受していた恩恵を得られない社会状況に危機感を持ち、あらゆる不平等をリセットする必要があると考えています。
ところが、そのサンダースがどうも黒人層からはそっぽを向かれているようです(サンダースが勝ったのは白人人口が多い州ばかり)。かつて黒人のコミュニティからラディカルな理想を語る政治家や活動家は何人も出てきましたが、いくら仲間内で熱く支持されても、そのラディカルさゆえに現実を変えるには至らなかった。
その歴史を知りながら日々、差別に直面したり、経済的・社会的不安を抱えたりしている多くの黒人たちからすれば、白人の若者には理想的に思えるサンダースの主張がナイーブな「机上の空論」に見えてしまうのでしょう。
また、アメリカでも猛威を振るい始めた新型コロナウイルスの影響もあるかもしれません。トランプが"右の革命"で社会を破壊しているのに対し、逆に"左の革命"を起こそうとするのがサンダースですが、ウイルスの危機が現実化するにつれ、人々の求めるリーダー像が"革命家"から"安心感のある実務型"へと傾いたとしてもおかしくない。
その点、オバマ政権時代に副大統領を務めたバイデンは、政策を見るとオバマよりは明らかに左ではあるものの、サンダースと比べればかなり「真ん中」に近く、良くも悪くも"安パイ"という印象があります。
ただ、仮に共和党トランプvs民主党バイデンとなった場合、バイデンが本当に有利かどうかはわかりません。ひとつの試金石になりそうなのが、移民をめぐる議論です。
現実問題として、不法移民の存在に不安を感じているアメリカ人は少なくありません。トランプの「アメリカの国力を強める"優秀な移民"は受け入れるが、人権を理由にボランティア精神で国境を開放し続けたらアメリカが今まで築き上げてきたものは壊れる」といった主張はかなりの詭弁(きべん)ですが、多くの人々に響いていることも間違いないのです。
トランプが「バイデンは国境をフリーにするグローバリストだ」と批難すれば、バイデンは「フリーにはしない。誰でも入れるわけではない」と反論するでしょう(実際、オバマ政権の不法移民対策はそれなりに厳しいものでした)。
ただ、それをバイデンが言ってしまうと今度はサンダース支持者や人権活動家からは「差別主義者だ!」と石を投げられることになる。それを共和党や右派メディアがさらにけしかける――そんな構図になることが想像できます。
誰が候補であれ、トランプに勝つにはまず民主党が"一枚岩"になる必要がありますが、それは決して簡単なことではありません。今後の展開に引き続き注目したいと思います。
●モーリー・ロバートソン(Morley Robertson)
国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。『スッキリ』(日テレ系)、『報道ランナー』(関テレ)、『水曜日のニュース・ロバートソン』(BSスカパー!)、『Morley Robertson Show』(Block.FM)などレギュラー出演多数。2年半に及ぶ本連載を大幅加筆・再構成した書籍『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』(集英社)が好評発売中!