『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、トランプ大統領の中国叩きの目的について語る。

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新型コロナウイルスの世界的な感染拡大は「中国政府の責任」と主張するトランプ米大統領ですが、ここに来て中国人(あるいは東洋人全般)への差別心をあおるような発言が目立っています。

あるときは「(中国のコロナによる"攻撃"は)パールハーバーよりひどい」と、アメリカの高齢層に内在する「黄禍(おうか)論」(かつて欧米白人社会で唱えられた黄色人種脅威論)を呼び起こそうとしてみたり、記者会見で質問をした中国系アメリカ人女性記者に対して、「そんなことは中国に聞け!」と途中で会見を打ち切るパフォーマンスをするなど、中国憎しの空気づくりを強く意識しているように見えます。

わかりやすい敵をつくり、それを徹底的に叩くことで支持層のハートに火をつけ選挙戦を有利に運ぼうというのはトランプの常套(じょうとう)手段。もう辟易(へきえき)している人も多いと思いますが、こと今回に関していえば、どこまでやるつもりなのか――つまり、中国に対してどこまで踏み込むのかという点に注目しています。

近年は米政権のみならず世界中の国々が、中国の巨大市場や格安の労働力に依存し、それと引き替えに中国共産党独裁体制の悪行に見て見ぬふりをしてきました。ウイグルやチベットへの弾圧、台湾の独立性の問題、中国国内での人権問題......そういった不正義を、トランプが徹底的に突いてくる可能性はあります。

おまえらは知的財産の窃取(せっしゅ)だけでなく人権も蹂躙(じゅうりん)してきた。そんな倫理観のない国とは付き合えない。(ライバルである民主党大統領候補の)バイデンは中国とも付き合い続けるだろうが、オレなら断交する。中国に依存ぜすともアメリカは生き返れるんだ――といった具合でしょうか。

言うまでもなく、トランプの目的はあくまでも自身の再選です。しかし今後、中国の人権問題などに容赦しない態度を明確にすれば、リベラル層の一部もトランプになびく可能性はあると僕は見ています。

自分たちのコンビニエンスな生活は、人権無視の独裁体制の労働力に依存したグローバル経済の上に成り立っていた。誰かの苦しみを自分たちの幸せに還元していた――そんな後ろめたさを、コロナをきっかけに感じ始めているリベラル層は少なくないのではと想像します(そういったメディア報道もあります)。

コロナでズタボロの米経済のV字回復は、どう考えても望み薄。ならばいっそ、この機会に中国に依存した世界のあり方を考え直して、「チャイナ・フリー(中国抜き)」の世界を作ろう――どうやったらそんなことができるかはさておき、そんな大胆なキャンペーンをトランプが展開したら、思いを託すリベラル層もそれなりに出てくるかもしれません。

仮にトランプがそれで大統領選に敗れたとしても、センチメント(=脱中国)は残る。アメリカだけでなく欧州の国々、一帯一路に組み込まれている小国も含め、「チャイナ・フリー」がポピュリストにとって都合のいいツールになるでしょう。

米上院は、中国政府による新疆(しんきょう)ウイグル自治区に暮らすウイグル族への弾圧に関し、トランプ大統領に制裁発動を求める法案を全会一致で可決したばかりです。トランプがその署名にすんなり応じるようなら、意外と大きな地殻変動が始まることになるかもしれません。

●モーリー・ロバートソン(Morley Robertson)
国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。『スッキリ』(日テレ系)、『報道ランナー』(関テレ)、『水曜日のニュース・ロバートソン』(BSスカパー!)、『Morley Robertson Show』(Block.FM)などレギュラー出演多数。2年半に及ぶ本連載を大幅加筆・再構成した書籍『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』(集英社)が好評発売中!

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