『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、世界中の大国も日本と同様に"場当たり政治"の失敗を重ねていると指摘する。

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日本各地で新型コロナの感染者が増え続けるなか、「Go To」キャンペーンが始まりました。為政者が場当たり的に方針を決め、どう考えても得策ではない状況になっても突き進んでしまう――これは日本ローカルの問題ではなく、世界中の大国も同じような失敗を重ねています。

顕著なのは近年のイギリスでしょう。世論の風向きを読みながらEU懐疑論をあおるポピュリストが台頭し、2016年の国民投票ではブレグジット(EU離脱)派が勝利。ここから海図なき航海が始まりました。

当初、イギリス政府はEUと距離を置く代わりに対米関係強化をもくろみましたが、トランプ政権との外交はひと筋縄ではいきません。そこで、次に頼りにしたのが中国。

原発新設計画への出資受け入れや、次世代通信規格5Gのファーウェイ機器導入決定などの動きは、事実上、中国・習近平(しゅうきんぺい)政権の一帯一路構想に自ら飛び込んだようなものでした(アメリカがダメなら中国と仲良くすればいい、と言わんばかりに)。

ところが、新型コロナに関する不誠実な対応や、香港国家安全維持法の施行により、ここにきてイギリス国民の対中感情は急速に悪化。英中の蜜月関係は終わりを迎えます。そこで、今度はカナダ、オーストラリア、アメリカ、ニュージーランドという"英語圏5ヵ国"で中国に全面的に対抗する構図を描いているようです。

......このイギリス政府の度重なる方針転換は、「昨日の友は今日の敵」というしたたかさの表れには見えません。複雑な現実と短絡してしまった国民感情を前に、ただ右往左往しているというのが実情でしょう。

とはいえ、中国の迷走ぶりも目立ちます。なぜコロナに関して自国に対する批判や警戒感が強まったタイミングで、香港の人々の人権を蹂躙(じゅうりん)するような施策を強行したのか。

香港の富裕層はほぼ親中派なのだから放っておけばいいのに、あんな力任せに抑え込んだら国際世論が黙っていないのは自明です。14億人の民衆を完全に掌握できていないと怖い、少しの綻(ほころ)びも見過ごせない―習近平政権はそんな"独裁パラノイア"に陥っているのかもしれません。

そしてアメリカ。トランプ大統領は就任からの3年半、"唯一の超大国"の威信を失墜させ続けてきました。かつてのアメリカは(善悪はともあれ)すべての政策にストラテジーがあり、中長期的な計算の下で実行されてきましたが、トランプ大統領が今見ているのは今年11月の大統領選のみ。そこで勝つことだけを目的にあらゆる政治資源を投じている。もうムチャクチャです。

為政者が基本のキすら謙虚に学ぶことなく、思いつきの施策を繰り返す―これは「アベノマスク」や「Go To」にもいえることだと思いますが、こうなったとき、社会にとって"今からできる最善のこと"はなんでしょうか。おそらくそれは、失敗の原因をタブーなしで議論し、問題の本質を明らかにすることでしょう。

しかし、人々は往々にして短絡的に"生贄(いけにえ)"を求めます。例えば、「Go To」では政治献金の件が報じられている二階俊博幹事長あたりが生贄となるのでしょうか。構造の問題を見ることなく"たったひとりの極悪人"を見繕って差し出したところで、社会は何ひとつ変わることはないのですが。

●モーリー・ロバートソン(Morley Robertson)
国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。『スッキリ』(日テレ系)、『報道ランナー』(関テレ)、『所さん!大変ですよ』(NHK総合)、『Morley Robertson Show』(Block.FM)などレギュラー出演多数。2年半に及ぶ本連載を大幅加筆・再構成した書籍『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』(集英社)が好評発売中!

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