『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが提案する、日本社会が変わるために必要なチャレンジとは――?
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日本の政治は"Exhaust option(エグゾースト・オプション)"、つまり今あるどの選択肢オプシヨンを選んでもうまくいかない状態になっていると感じます(exhaustは燃え尽きた、使い果たしたといった意味です)。
日本の新しいリーダーが選ばれる自民党総裁選でわれわれが見たのは、いわば"ガラス張りの密室政治"でした。もはや本気でそれ(派閥同士の取引がどうだ、とか)を隠す気すらない自民党のおじさん政治家たちが、身内の論理が通じる金魚鉢のような狭い世界でレバレッジを利かせ、そこに有象無象(うぞうむぞう)が乱入して政治や社会を歪(ゆが)めていく――そんな図式。
象徴的な物言いをするなら、これからも、おじさんの、おじさんによる、おじさんのための為政が続いていくということです。
あえて好意的に見れば、彼らに任せたほうが日本は短期的には安定するかもしれません。しかし、それは社会が変わる可能性を放棄することとのトレードオフ。そして今の時代、国や社会が変われないということは、緩やかに衰え、いわば"安楽死"していくことを意味します。日本は「安倍と共に去りぬ」ということになってしまうのでしょうか?
もうずっと言い続けていることですが、ここを乗り越えるには、日本社会が戦後70年以上も手をつけてこなかった"宿題"を終わらせなければいけません。「ほぼ無関心+緩やかな支持」で6割を勝ち取るのが日本政治の常道だったと思いますが、これからは個々の政党や政治家がイデオロギーや世界観を明確に打ち出し、「51%の強い支持」を取りにいくべきだと思います。
「なんとかなる」ではもうなんともならないわけですから、まずは先送りや事なかれ主義から脱却する必要がある。安易なポピュリズムや炎上商法ではなく、覚悟を持ったドラスティックな主張が出てこなければ、社会に新しい議論は生まれないということです。
アメリカでこうした流動性を担保しているのは、州の独立性が高い連邦制という仕組みです(例えば連邦政府が大麻を禁止しても、多くの州が独自に合法化しています)。日本でも思い切った改革を全国一斉でやるのが難しいなら、例えば九州だけドラスティックな政策を導入するといった発想も面白いと思います。
九州地区の首都(キャピタル)を福岡とし、なんでもありの開放特区とする。すでに福岡市はテック系のスタートアップ誘致に力を入れていますが、これからは移民を大量に受け入れ、同性婚や大麻解禁を含め、閉塞(へいそく)的な日本ではできなかったチャレンジをシリコンバレー式にどんどんやっていく。
さらに、香港に取って代わる新しい時代の「アジアの金融センター」を置く。中国共産党の影におびえる香港の金融マンには自由を約束し、税制上も恩恵を与えて大いに稼がせる。「国境を越えれば自由と豊かさを享受できる」ことを体感した彼らをモデルケースとして、アジア各国から優秀な人材を誘致する――。
こうした社会が実現した地域では、旧来的な価値観の上であぐらをかいていた人たちは居場所や心のよりどころを失うでしょう。一時的な治安の悪化、世代間の亀裂、住民間の対立もあるかもしれません。
それでも、カオスを丸のみする気合いを持った人々にとっては極めてエキサイティングな時代になる。――これが僕の私案です。皆さんはどうでしょう?
●モーリー・ロバートソン(Morley Robertson)
国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。『スッキリ』(日テレ系)、『報道ランナー』(関テレ)、『所さん!大変ですよ』(NHK総合)、『Morley Robertson Show』(Block.FM)などレギュラー出演多数。2年半に及ぶ本連載を大幅加筆・再構成した書籍『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』(集英社)が好評発売中!