『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンアメリカ発の陰謀論信奉グループ「Qアノン」について語る。

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コロナの第2波が本格的に猛威を振るい始めたアメリカや欧州では、人々の(経済面も含む)不安の増大によりさまざまなフェイクニュースや陰謀論が拡散し、パンデミック(感染爆発)とインフォデミック(デマを含む情報の氾濫)の"特製カクテル"で社会が混乱に陥っています。

社会が成り立つのに必要な相互の信頼をソーシャル・ファブリック(社会の織糸)と呼ぶことがありますが、その縦糸と横糸が綻(ほころ)んでいる状態と言ってもいいでしょう。グローバリズムによる格差の拡大でもともと社会が不安定化していたところに、新型コロナという巨大なストレスがかかり、あちこちで大規模な綻びが生じたわけです。

とりわけ衝撃的なのは、アメリカ発の陰謀論信奉グループ「Qアノン」のぶっ飛んだ極右的思想が、欧州にもかなり飛び火していることです。例えば、イギリスではQアノンの影響を受けた自粛反対デモが複数の都市で展開され、ドイツでもQアノンの物語がネオナチ思想と共鳴して深く浸透し、普通の市民をも巻き込みつつあります。

アメリカの自粛反対デモで特に顕著ですが、Qアノン系の主張は〈マスクをしない個人の権利を守れ〉→〈政府や州による外出制限=個人の権利の剥奪はいずれ銃規制につながる〉→〈全体主義がやって来る〉と、論理が一気に飛躍。

さらに、〈ワクチンは悪だ〉〈ジョージ・ソロスとユダヤの陰謀が世界を覆っている〉〈悪魔崇拝者と小児性愛者が支配する深層国家デイープステートと戦え〉......など、いくつもの"陰謀論の具材"が大きなフライパンで一気に香ばしく炒められ、まるでチャーハンのように一枚の皿に盛りつけられています。

問題は、こういった陰謀論に惹(ひ)かれてしまう個人を組織化する"マニュアル"ができつつあることです。

さる9月中旬、米ジョージア州で、下院議員選挙の民主党候補だったケビン・バンオースダル氏が突如、立候補を辞退する騒ぎがありました。

実は、彼の対抗馬である共和党候補マージョリー・グリーン氏はQアノンを堂々と支持する女性の新人だったのですが、彼女を応援するQアノン信奉者たちからSNSなどでまき散らされるヘイトや脅迫に、バンオースダル氏は精神的にすっかり参ってしまったのです(その影響で夫婦仲も悪化し、離婚しています)。

これが共和党の直接的な指示によるものとは思いません。しかし、陰謀論信奉者たちの心をたきつけ、勝手に政敵を攻撃してくれる"民兵"に仕立て上げるような言論工作が、トランプ政権の4年間でマニュアル化されつつあることは間違いありません。この手法が欧州など世界各地で継承されれば、社会の混乱はますます深刻なものになるでしょう。

今のところ、中国は独裁国家の統制によって、日本は同調圧力と従順な国民性によって、コロナ禍という"ストレステスト"になんとか耐えています。しかし、日本社会も日に日に疲弊しているのは事実。僕がテレビ番組やツイッターなどで米大統領選に関する見解を述べると、Qアノンを信じる日本人から反論が飛んでくることも増えました。

欧州ではコロナ第2波を"TSUNAMI"と称する報道が目立ちますが、日本でも社会を揺るがす"津波"は案外近くまで押し寄せているのかもしれません。

●モーリー・ロバートソン(Morley Robertson)
国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。『スッキリ』(日テレ系)、『報道ランナー』(関テレ)、『所さん!大変ですよ』(NHK総合)、『Morley Robertson Show』(Block.FM)などレギュラー出演多数。2年半に及ぶ本連載を大幅加筆・再構成した書籍『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』(集英社)が好評発売中!

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