『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、マイナンバーカードの普及策について語る。
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マイナンバー制度は菅政権のデジタル化政策の鍵を握る存在だ。そのため政府は、2022年度末までのマイナンバーカードの全国民交付を目標に掲げているが、普及率はいまだ2割程度。
コロナ給付金のオンライン申請をする場合に必要なこともあって、取得者は増えているが、全国民に届けるという目標に向けて順調なペースだとは決して言えない。
11月27日に開かれた政府の会合で、マイナンバーと個人の銀行口座の紐(ひも)づけを義務化する案が見送りになったのは、義務化できるほどマイナンバーカードの必要性についての理解が社会に浸透していないからだ。
また、紐づけによって自身の資産状況が政府に監視されるという不安の声がいまだ根強いこともある。紐づけを義務化すれば、マイナンバーカードの普及率の伸びは今よりも鈍化するだろう。
そして、代わりに菅政権が示した妥協案は、「紐づけは政府が運営するマイナポータルに、ひとり一口座のみを任意で登録する」というものである。これにより、マイナンバーカード保有者は迅速にコロナ給付金を受け取ることができると政府はそのメリットを語っている。
ただ、この妥協案は、紐づけしなければお金はなかなか届かないぞと低所得者を脅す事実上の「紐づけ義務化」の施策になってしまうだろう。コロナ禍で窮乏する人ほど、給付金を少しでも早く手にしたいと口座の紐づけに応じる可能性が高いからだ。一方で、多額の脱税を行なっているような高額所得者などは決して紐づけに応じない。
政府に言いたい。こんな貧困者いじめの政策でなく、もっと骨太のマイナンバー普及策を打ち出すべきだ。そのためには、政府がマイナンバーを扱うことに対する国民の信頼を醸成することが一番重要だ。
具体的に言うと、例えば政治資金の収支をすべてマイナンバーで行なうと宣言する。党や政治資金団体、そして公職にある政治家の全口座をマイナンバーと紐づけ、あらゆる政治資金の収支をガラス張りにするのだ。
さらに、政治活動に関するお金のやりとりもすべてキャッシュレス化し、電子マネーやクレジットカードなどの決済のみとする。それを守らなければ刑事罰に処する。そうすれば、お金をめぐる政治の腐敗は激滅するだろう。
「マイナポータル」を利用して政治家の活動費に関するデータを誰でも閲覧できれば、例えば今も追及が続く安倍前総理の「桜を見る会」への政治資金補填(ほてん)に関する問題も起こらなかったはずだ。
政治家がマイナンバー制度によって自分自身の資産状況や収支を透明化する。それはすなわち、この制度を国家の土台のひとつにする覚悟を示すことだ。そうすれば、マイナンバーの利便性は広く国民に受け入れられるだろう。
マイナンバー制度のみならず、菅政権のデジタル化政策の数々には、どうも小手先感がつきまとう。私は一貫して「DX(デジタルトランスフォーメーション)省」の新設を提言しているが、それは単なるデジタル化だけでは意味がないからだ。
ハンコを廃止したり、行政手続きをネットでできたりすることにとどまっていては意味がない。デジタル化を通じて社会の仕組みをより良いものに変えていくこと。これこそが真のデジタル化政策であり、DXなのだ。
●古賀茂明(こが・しげあき)
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。『日本中枢の狂謀』(講談社)など著書多数。ウェブサイト『DMMオンラインサロン』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中。最新刊『日本を壊した霞が関の弱い人たち 新・官僚の責任』(集英社)が発売中