『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンバイデン政権について予測する。

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就任までおよそ1ヵ月となったバイデン米次期大統領ですが、いやな言い方をすれば、今後4年間はきれいごとから距離を置き、ひたすらプラグマティスト(現実主義者)として振る舞うことを余儀なくされるでしょう。さまざまな分野において"落としどころ"を探る、妥協の日々になるといってもいいと思います。

例えば先の大統領選、激戦州ペンシルベニアの争点は「フラッキング(水圧破砕法)」でした。これは水と化学薬品などを用いて岩盤を破砕し、天然ガスを取り出す手法のことですが、バイデンは選挙戦の後半になって、フラッキングを禁止するという自身の主張を撤回すると発言しました。

フラッキングは深刻な環境汚染が懸念され、環境活動家などからは長年問題視されている一方、全米第2位の天然ガス産出州であるペンシルベニアにはフラッキング産業に雇用を支えられている住民も多く、バイデンもその意向を完全に無視するわけにはいかなかったのです。

最終的にバイデンは「連邦政府所有地でのフラッキングは禁止」という妥協案で選挙を乗り切りましたが、今後は誰もがそこそこ納得する落としどころを模索していくしかありません。―そんなものが存在するかどうかはわかりませんが。

外交面でも状況はそう変わりません。例えば、民主党支持層は米大統領選への介入など、ロシアの"悪事"を厳格に追及してほしいと期待しているでしょう。

しかし足元を見れば、2年後の中間選挙ではトランプがリベンジを狙ってくるかもしれない状況です。であれば、表だって米露が真っ向から対立するより、ロシアから「トランプにとって不利な情報」を引き出す(あるいはなんらかの形でメディアにリークさせる)という"汚いディール"で米露双方が手を打つ可能性もある。

ロシアにとっては"御しやすいアメリカ"ならトランプでなくても構いませんし、バイデンとしても、プーチン政権を潰して"混乱した大国"が残るより、今のままトーンダウンしてくれればいいという穏健な判断(≒妥協)をするのではないか、ということです。

対中国でもそうです。例えば、仮に習近平(しゅう・きんぺい)国家主席が「中国が本気で環境対策をすれば、あなたにも政治的にプラスですね。ただ、香港やウイグル、チベットの"国内問題"には干渉しないでくださいね」とウインクされたら、バイデン政権は握手で応じるのではないでしょうか。

こうした姿勢を、民主党支持層でも特に社会民主主義傾向の強い若年層、AOC(アレクサンドリア・オカシオ=コルテス下院議員)を熱烈に支持する急進左派は、生ぬるいと批判することでしょう。

しかし、いくら正義を主張したところで、相手が応じずに"ゼロ回答"では大統領の仕事としては落第です(内政でも外交でも)。国内では経済や教育、価値観などあらゆる分断が表面化し、国外ではまさに世界の警察から降りようとしているアメリカを、妥協に妥協を重ねながらなんとかハンドリングしていく。どんな優秀なリーダーにとっても相当な難題です。

「過激ではない」「右でも左でもなく真ん中」がウリのバイデンは、粛々と傷口に絆創膏(ばんそうこう)を貼り続けるような政治を続けるでしょう。左右両極からの罵倒に耐えながら。

●モーリー・ロバートソン(Morley ROBERTSON)
国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。『スッキリ』(日テレ系)、『報道ランナー』(関テレ)、『所さん!大変ですよ』(NHK総合)などレギュラー出演多数。2年半に及ぶ本連載を大幅加筆・再構成した書籍『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』(集英社)が好評発売中!

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