『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、森喜朗前会長の女性蔑視発言について語る。

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東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗前会長の女性蔑視発言。当初は擁護に回っていたIOCが"功労者"のはしごを外したのは、国際世論(特に五輪の放映権を持つ米NBCの辞任要求記事)の影響が大きかったといえます。

来年開催予定の北京冬季五輪に関連して噴出するであろう(そして、中国経済に依存する国際社会にとっては解決どころか直視することも難しい)ウイグルの人権侵害や香港の問題に比べれば、日本の"セクシズム会長"をお払い箱にすることに対する迷いなどなかったでしょう。

日本国内では一部、森氏を擁護する声(メディアによる切り取りだ、発言は問題だが五輪を成功させられるのは森氏しかいない、あのひと言で功績を無視するのはおかしい、など)も散見されます。

もはや言うまでもないとは思いますが、そんな理屈は、「この時代に、五輪開催国の組織委員会会長がセクシズム丸出しの発言をした」という事実の前にはなんの役にも立ちません。

一方、これがドナルド・トランプ前米大統領やナイジェル・ファラージ英独立党党首だったら......という妄想も膨らみました。森氏は中途半端な逆ギレ謝罪会見をしましたが、トランプやファラージなら火に油を注ぐように不適切発言を重ね、社会を分断させ、"ポリコレ勢との泥仕合"に仕立て上げたでしょう。

今回そうならなかったのは、もちろん日本社会がまともだったという側面が大きいのですが、逆に「日本社会がまだ成熟に近づいていないからこそ、そうはならなかった」という面も否定できないかもしれません。

差別に対してよりセンシティブな欧米社会で、政治家らのあからさまな差別発言が支持されるケースが多発しているのは、急速に進む多様性への反動です。一方、そこまで多様性が進んでいない「周回遅れ」の日本社会では、そもそもリベラルな意見に対する大規模な反発が起きづらいということです。

日本に限らず、社会を変えていくときには産みの苦しみがつきまといます。だからこそ多くの人は言い訳をして現状維持を図る。この胃がもたれそうな"既得権者による既得権者のための社会"を変えようとしないのは、狭い意味での既得権層だけではなく、政治に無関心で現状維持に安住する国民でもあるのです。

一歩動き出す方法はいくらでもあります。何もデモやSNS上での「いいね」ばかりが運動ではありませんし、無理してそれらを支持する必要もありません。極めて単純、かつ「ベタすぎる話」かもしれませんが、例えば若年層が市区町村の地方選挙のレベルからきちんとイシューを調べて、まともな投票行動を起こすことにも大きな意味があるでしょう。

昨年の米大統領選でバイデンが勝利した背景には、リベラルな若年層の投票率の上昇がありました。しかも、米大統領選のシステムには既存の白人社会を支持基盤とする共和党に有利に働くような仕掛けが織り込まれていますが、日本の選挙にはそういった面はないはずです。

いくら高齢化社会といっても、若年層の投票率が明らかに上昇すれば、政治はそれを無視できない。ミャンマーや中国のような社会とは違い、ただ選挙に行くだけでいい――そう考えてみてもいいのではないでしょうか。

●モーリー・ロバートソン(Morley ROBERTSON)
国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。レギュラー出演中の『スッキリ』(日テレ系)、『報道ランナー』(関テレ)、『所さん!大変ですよ』(NHK総合)ほかメディア出演多数。2年半に及ぶ本連載を大幅加筆・再構成した書籍『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』(集英社)が好評発売中。

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