『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが自民党新総裁に期待する"脱コンプレイセンシー"な舵(かじ)取りとは――?

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政治や社会の問題において"コンプレイセンシー(complacency)"という英単語がときどき登場します。「なんだかんだで現状に満足し、それ以上の改善や変化を試みない状態」というような意味で、例えばアメリカでは「選挙戦では革新的なことを言っていた民主党が、政権を取ってみたら議会で妥協を重ね、骨抜きの法案ばかり通す」ようなときに批判的なニュアンスで使われます。

約2週間の選挙戦を経て、自民党の新総裁が決まりました。4候補者それぞれが各分野で政策を主張しましたが、重要なことは、一国のリーダーとなってから本当に"脱コンプレイセンシー"な舵取りができるかどうか。現状の課題に向き合い、変化や摩擦を恐れず改善へのアクションを取れるかどうかでしょう。

コロナ禍における感染拡大防止とGo To キャンペーンの矛盾に象徴されるように、今や自民党に「いかなるときも各方面の利害を調整できる親分」としての力はなく、支持層を形成するさまざまな既得権益がバッティングしてがんじがらめになっているように感じられるからです。

例えば対中国政策に関しては、河野太郎氏を除く3候補が「人権侵害制裁法(日本版マグニツキー法)」に賛同の立場を表明しました。ただ、骨抜きやポーズではなく本気のマグニツキー法をやるなら、中国との付き合い方そのものを抜本的に変える覚悟が必要です。

これだけ中国市場に日本経済が依存していても、そして財界から反対があっても、本当に中国とデカップリング(切り離し)する気があるか、という話です。

この点、総裁選で高市早苗氏を後押しした安倍晋三元総理は、"党内右翼政党"を立ち上げたかのように威勢よく振る舞われていました。元からそういう人じゃないかとツッコまれそうですが、イデオロギー面から高市氏を支持する右派メディアにばかり顔を出し、そちら方向のファン受けを露骨に狙う姿は、"元総理"の品格としてどうなのだろうと感じざるをえません。

在任中、内向きには排外ナショナリズムをあおりつつ、実際は経済優先で中国の諸問題に目をつぶり、その巨大市場に頼ってきたのは誰だったでしょうか。

もっともこれは政治家だけではなく、日本国民全体にもいえる話です。あなたが着ているその洋服、品質がいいのになぜそんなに安いのか真剣に考えてみたことはあるでしょうか。

「企業努力」という言葉に覆い隠された製造過程での人権侵害、あるいは環境破壊があるかもしれない――などとはほとんどの人は考えもせず、日々平穏に暮らしているでしょう。しかし、世界で起きている多くの問題は、もはやその国や地域単独の問題ではなく、すべてはつながっているのです。

中国共産党の人権蹂躙(じゅうりん)に加担することをこれ以上黙認してビジネスを行なうという選択は、もはや許されないと僕は考えます。中国経済とのデカップリングが何を意味するかわかっているのか、と経済人からお叱りを受けそうですが、では、このまま現状を追認した先の世界に責任が持てるのか。

党のトップを選ぶ選挙で4人中3人が新マグニツキー法に賛成した自民党が、それでも"コンプレイセント"であり続けるなら、そのときこそリベラルを自任する野党が意地を見せるべきでしょう。

●モーリー・ロバートソン(Morley ROBERTSON)
国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。レギュラー出演中の『スッキリ』(日テレ系)、『報道ランナー』(関テレ)、『所さん!大変ですよ』(NHK総合)ほかメディア出演多数。NHK大河ドラマ『青天を衝け』にマシュー・ペリー役で出演し大きな話題に!

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