『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、左派野党が生まれ変わるために必要なことについて語る。
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近年、なぜ日本の左派野党に対する期待はこれほどまでにしぼんでいるのか。旧民主党政権の失敗が尾を引いているとか、離合集散の連続で頼りないとか、いろいろな指摘はあると思いますが、最大の要因は「自民党がボロを出すのを待ち、それを追及することが最大の仕事になっているから」だと僕は考えています。
そのため政治の中心テーマは常に「自民党の是非」であり続け、野党はまたその文脈の中で批判を繰り返す。だから今回の自民党総裁選でも「じゃあ、自民党の誰ならマシなのか?」という問いかけを有権者が素直に受け止めてしまうのです。
では、何を変えるべきなのか。目的は「オールド左翼」的な批判政党からの脱却ということになりますが、まずは何よりも「言葉」を変えてほしい。憲法や綱領を聖典のように位置づけて難しい言葉を使うのではなく、文脈依存度の高い"永田町用語"や"霞が関文学"でもなく、誰もが理解できる言葉で情報発信をし、社会と対話していくべきです。
これは1960年代以降のアメリカで、公民権運動やベトナム反戦運動の際に左派活動家が強く意識していたことでもあります。政治の会話をストリートレベルにまで落とし込み、若者がそれぞれのイシューを語りだすような社会との対話ができれば、自民党が真剣に向き合ってこなかった新たな支持層とつながれるかもしれません。
同時に発信の仕方も、オールドメディアからスマホへシフトしている若い生活者に寄り添ったものにすべきでしょう(この点は自民党に後れを取っています)。
また、「怒り」を動力源として人を動員したり、票を集めたりすることに頼るのは基本的にやめるべきだろうと思います。特に若い世代ほど、マイナスのエネルギーに共感する人は少ない。
自民党が設計した(あるいはアップグレードを途中で放棄した)旧来型の「エコシステム」の不備をあげつらうだけでは、これまでの固定票以上のものは得られません。
例えば、与党政治家がセクハラや差別発言をしたとして、それに対する批判はもちろん必要ですが、とにかく徹底的に叩いて敵の失点を広げようという今の姿勢では限界がある。
そこから一歩抜けて、自分たちの議員構成で「これが多様性なんだ」と示すなど、違った形の"希望"を見せることが重要です。批判を承知であえて申し上げれば、"安倍政権的なものの象徴"たる森友問題の追及に固執しすぎることにも、似たような構造的問題があるかもしれません。
これまでとはまったく異なる世界観、新自由主義を超える豊かさの分配を提唱することにより注力し、汗を流すべきだと思います。
同時に、リベラルを名乗るからには国際水準の視野で、環境問題や人権問題について多様な視点を提示してほしい。感度の高い人は反応してくれるはずです。
海外の例でいえば、イギリスの2大政党の一角を担う労働党、あるいは先日のドイツ総選挙で躍進した緑の党のような左派政党がそのイメージに近いかもしれませんが、昭和的・テレビ的・電通的な自民党とは対極のクールな存在として、日本社会の深層にある複雑な問題に正面から向き合い、長期的な国家観を創出する野党の出現に期待しています。
●モーリー・ロバートソン(Morley ROBERTSON)
国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。レギュラー出演中の『スッキリ』(日テレ系)、『報道ランナー』(関テレ)、『所さん!大変ですよ』(NHK総合)ほかメディア出演多数。NHK大河ドラマ『青天を衝け』にマシュー・ペリー役で出演し大きな話題に!