16年間続いたメルケル政権がついに終わるということで、国際的にも注目されたドイツ総選挙。"勝者なし"といわれた結果を受けて今後は連立交渉が本格化するが、ドイツ政治の変化を象徴するのが新世代の台頭だ。

『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが解説する。

■議員の3人にひとりが40歳以下に!

衆院選を前にして、多くの国民の間には、漠然とした停滞感のようなものが漂っているように思います。選挙結果がどうなっても大きな変化は期待できず、低成長あるいは現状維持のループから抜け出すことはないだろう―そんな諦めの感情です。

ただ、強調しておきたいのは、若い人までもがその巻き添えを食う必要はないということです。世代間対立をあおりたいわけではありませんが、大人のしがらみやくだらない事情に付き合っていると損をするだけだということは覚えておいてもいい。今、ドイツで起きている変化を目の当たりにすると、そんな思いにとらわれます。

9月末に行なわれたドイツ連邦議会の総選挙は、若者の声が大きく政治に反映される結果となりました。

引退するアンゲラ・メルケル首相が所属する保守のキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)をかわし、中道左派の社会民主党(SPD)が第1党に―日本のメディアを含め、多くの報道がそこに力点を置いて伝えたのは当然といえば当然ですが、今回注目したいのは第3党に躍進した緑の党(グリーンズ)と、第4党となった自由民主党(FDP)です。

前者は環境保護や格差解消などを軸としたリベラル政党、後者は市場経済を重視する中道右派政党で、25歳未満の有権者の44%がこの2党に投票。両党から20代、30代の若手議員が多く選出され、選挙前には7人にひとりだった40歳以下の議員の割合が、今や3人にひとりにまで増加し、議員の平均年齢は58歳から47.5歳と10歳以上も若返りました。

若者が覚醒し、政治参加を進め、立候補をし、それをみんなで支持し、国政に大きな影響を与えうる可能性を手にしたのです。

極めて特徴的なのは、両党が既存の大政党とはまったく違うPR戦略、コミュニケーション手段で支持を浸透させたことです。例えばグリーンズの23歳の新人女性議員は、「スケートボードに乗って議場に行く」と明言。

パフォーマンスといえばそれまでですが、若者にとっては「自分たちの仲間が、既得権層の話し合いをぶち壊しに行く」ように感じられますし、気候変動対策を重視する党の政策にも合致しています。

ただし、グリーンズとFDPの主張そのものには相反する部分も多い。グリーンズは富裕層への増税を望んでいるけれども、FDPは反対。産業振興についても、FDPは市場経済を重視する一方、グリーンズは気候変動と社会問題に取り組むことを優先しています。

それでも、彼らは連立交渉を前にして"共闘"を確かめ合うため、インスタグラムで代表者の自撮り写真を投稿し、旧態依然とした政治のやり方を変えると表明しました。さらに投票年齢を16歳まで下げること、大麻の合法化という2点を共通の目標をして掲げ、「西ドイツ的な政治」を一掃するとしています。

こうしたPR戦略の積み重ねは"大人たち"を大いに揺さぶり、第1党となったSPDの次期首相オラフ・ショルツ氏は、この2党の代表者たちを最初の面会相手に選びました。

今のドイツは外交面でも、内政面でも、多くの困難と分断に直面しています。大人たちが合意に至らずこじれた問題や、既得権層が前進を阻んできたイシューでも、グリーンズとFDPがある種の"呉越同舟"で力を合わせれば解決を目指せる―そんな彼らの主張は、連立交渉においてより優位に立つための大きなレバレッジとなり、キャスティングボートを握りつつある状況です。

■食べたいメニューは自分たちで作れ

ドイツではこうした状況を若者自身が手繰り寄せたわけですが、理論上は日本でも同じことが起きてもおかしくない。しかし、残念ながら今回の衆院選では、そんな風が吹きそうな気配を感じられないという人も多いのではないでしょうか。

もちろん突飛なことを言う候補者、あるいは政党もありますが、根本的な変化を起こすために戦略的に挑んでいるという構図にはなっていません。

日本の若い有権者の多くが感じている停滞感も、あるいはSNSなどでの議論が炎上含みの泥仕合になりがちなのも、おそらく理由のひとつはその点にあるのでしょう―そもそも目の前に差し出されたメニュー(政党や候補者、政策)が、どれも大人の好きそうな漬物や煮物ばかりで、自分たちが本当に食べたいものはない、と。

ただ、ドイツの現状を見ていると、冒頭でも申し上げたとおり「若者は大人のグタグタに付き合う必要はない」と痛感します。つまり、食べたいメニューは自分たちで作り出せばいいということです。

若いということは宿命的に経験が少なく、政治をやる上ではディスアドバンテージも小さくありません。ただ、逆に若いからこそできる横のつながり、対話のやり方があり、だからこそ目まぐるしく「価値観が代謝していく」のです。SNSでもなんでも使って、どんどん同世代で語り合えばいい。

知識が豊富で雄弁な上の世代に難しい経済用語や政治用語を振りかざされて「わかってないね」などと諭されても、気にする必要はまったくありません。

ドイツの若者が覚醒した背景には、それまで受けた教育、社会環境などさまざまな影響があるはずで、日本とは選挙のシステムも違う。日本の若者に、それをそっくりそのまま押しつけることの乱暴さは重々理解しています。

それでもあえて今回、このテーマを取り上げたのは、やれることはたくさんあるよ、ということを言いたかったからです。たとえ今回の衆院選で日本が変わることはなくとも、「何をやっても意味がない」と絶望してしまっては、結局一番損をするのは若い世代なのですから。

●モーリー・ロバートソン(Morley ROBERTSON)
国際ジャーナリスト。ミュージシャン。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。レギュラー出演中の『スッキリ』(日テレ系)、『報道ランナー』(関テレ)、『所さん!大変ですよ』(NHK総合)ほかメディア出演多数。NHK大河ドラマ『青天を衝け』にマシュー・ペリー役で出演し大きな話題に!

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