『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが"なんとなく改憲"の機運について指摘する。
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先の総選挙では、左派野党が議席を減らし、自民党は単独で絶対安定多数、そして日本維新の会が躍進しました。しかし、これは「日本が右傾化した」ことの結果ではないでしょう。
例えばドイツでは、子供の頃から政治や社会のことを学校で学び、ディベートを叩き込まれます。そういう国々で2010年代に勃興した排外主義は、曲がりなりにも「ロジックのある極右」でした。
しかし、こうした欧州の潮流を日本にむやみに当てはめるのは的外れです。むしろ日本の政治や民意は、基本的にそのときの空気に付和雷同する。今回もさまざまな状況的理由からなんとなく右寄りの政党が支持され、たまたま「改憲勢力」が多数を占めたという印象です。
維新は国民民主党と連携して「改憲議論を促進していく」そうですが、この話題はこの先どうなっていくでしょうか。
ひとつ確実に言えるのは、安倍長期政権は「改憲」というネタを右派層の客寄せ程度に軽く扱ってきたということ。そして、今の自民党の高市早苗政調会長は「安倍路線の継承」を公言して総裁選を戦った人です。
となると、憲法のここをこう変える必要がある、というリアリズムに基づいた改憲論というよりは、新自由主義、夫婦別姓反対、女系天皇反対、靖国参拝......といった"右翼スペクトル"の一環として改憲カードを利用している側面が強いのではないかと推察します。
また先日、評論家の古谷経衡(つねひら)さんが掘り起こして検証されていましたが、高市さんは2012年に自身の公式サイトのコラムで、福祉に頼ることを甘えであるかのように断じ、そうした若者が増えたのは教育の問題だ、教育勅語の精神が必要だ、というような発信までしています。
最近はメディア露出を重視し、柔和な印象づけを狙っているようですが、総裁選出馬に際してもなおこのコラムを削除すらしていないことは強調しておいてもいいでしょう。
しかし、そんな"なんとなく改憲"の流れに対して「憲法"改悪"はありえない」とか、「戦争のできる国にするな」といった議論の余白がない反対論をぶつけても、いわば空気vs空気にしかなりません。
その構図では、むしろ"強めの意見"になんとなくの期待感が集まってしまう可能性も高い。そうではなく、イシューを個別に切り分け、現憲法の利点も欠点も挙げた上で、議論の中で相手の改憲論を批判していくのが進歩的なリベラルの仕事です。
......しかし、ここまで言っておいてなんですが、実は、僕たちの世代が「若者よ議論しろ、意識を持て」と言ってしまうのは心苦しくもあります。僕自身、40代になるまで政治も選挙もくだらない、自分の好きに生きればいいと思っていたし、この感じは日本の同世代にもそれなりに共通していたはず。
今の「空気に付和雷同する日本社会」は、かつての若者たちがノンポリをよしとして議論に踏み込まずにきたことの積み重ねでもあるだろうと思うのです。
今ではSNSなどから社会問題に覚醒する若者もいますが、やはり多くはノンポリでしょう。政治なんて大人(オヤジ)にやらせておけ、と思えるのも平和の証(あかし)。ただ、その平和は現在とてももろい状況にある。やはりまずは大人たちが変わらないと、何も起きようがないのかもしれません。
■モーリー・ロバートソン(Morley ROBERTSON)
国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。レギュラー出演中の『スッキリ』(日テレ系)、『報道ランナー』(関テレ)、『所さん!大変ですよ』(NHK総合)ほかメディア出演多数。NHK大河ドラマ『青天を衝け』に続き、TBS系日曜劇場『日本沈没―希望のひと―』への出演が話題に!