『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、ドイツの全原発停止について語る。

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今年中に全原発の停止を達成する予定のドイツが、想定外の選択を迫られています。ドイツは2002年に脱原発を決め、紆余(うよ)曲折ありつつも日本の「3・11」を契機に加速。再生可能エネルギーの普及と、温室効果ガスの排出量が少ない天然ガスの輸入拡大により、原発への依存度を段階的に下げてきました。

しかし今、欧州を原油と天然ガスの価格高騰が襲っています。コロナ禍の反動による世界的なエネルギー需要の急増に加え、欧州最大のエネルギー輸入先であるロシアが戦略的に天然ガスの供給を絞っていること、そしてウクライナ情勢の緊迫化などがその背景にあります。

なかでもドイツは脱原発を実現すべく、天候に左右される再生可能エネルギーとロシア産天然ガスへの依存度を強めていたために、身動きが取れなくなってしまった。ドイツがウクライナをめぐる対ロ経済制裁について態度を明確にできないことで、EU(欧州連合)の外交政策は一枚岩ではなくなっています。

ロシアとドイツを結ぶガスパイプライン「ノルドストリーム2」に関しても、ほかのEU諸国やアメリカが制裁対象に含めることを求めるなか、ドイツは四面楚歌(そか)となりつつあります。

一方、ロシアの動きは狡猾(こうかつ)で、"売り先"としての欧州への依存度を下げられる(=経済制裁のダメージを軽減できる)ように、中国に対する天然ガスの輸出量を拡大する契約を締結しました。このあたりは事実上の"独裁政権"同士ゆえに可能な、長期的戦略に基づいた動きといえるでしょう。

これに対し、アメリカのバイデン政権は中東のカタールに接近し、NATO(北大西洋条約機構)の"非加盟同盟国"と位置づけることとのバーターで、欧州への天然ガス輸出拡大を呼びかけています。

ただ、カタールはEUの足元を見てLNG(液化天然ガス)の長期売買契約を迫っており、今度はカタールへの依存が新たな問題となる可能性もある。また余談ながらカタールでは、今年秋に開催されるサッカーW杯に向けた建設工事に関連して外国人労働者の人権問題も浮上しており、昨年11月にはその問題を取材していたノルウェーのジャーナリストが一時拘束される騒ぎも起きています。

そんな欧州の置かれた状況を考えると、再生可能エネルギーの安定供給が実現するまでの間は原発を動かすという選択は合理的かつ現実的なプランといえます。

事実、欧州委員会は昨年、「脱炭素社会実現のために原発が大きな役割を果たす」と明言し、すでにフランスのマクロン政権が2007年から止めていた原発の新設を決定。EUから離脱したイギリスのジョンソン首相も、「グリーン産業革命」の一環として原発推進の姿勢を明確にしています。

それでもドイツは、今年中に全原発停止という方針を(今のところ)変えていません。しかも現在のシュルツ政権では、昨年の総選挙で躍進した原発に反対する緑の党が連立の一角を担っています。

原発抜きでのエコロジー達成には、特定国への依存に伴う安全保障上のリスクがつきまとう。そんな現状を突きつけられたドイツは、リアリズムでエネルギー政策を転換するのか、それとも現路線をあくまでも貫くのか――難しい選択です。

●モーリー・ロバートソン(Morley ROBERTSON)
国際ジャーナリスト、ミュージシャン。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。レギュラー出演中の『スッキリ』(日テレ系)、『報道ランナー』(カンテレ)、『所さん!大変ですよ』(NHK総合)ほかメディア出演多数。昨年はNHK大河ドラマ『青天を衝け』、TBS系日曜劇場『日本沈没―希望のひと―』への出演でも話題に!

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