『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、ウクライナからの"生の情報"に触れる意義について語る。
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ロシアのウクライナ侵攻に関する情報がメディア報道やSNSで日々、飛び交っています。特にネットでは、英調査報道サイト「べリングキャット」などが丁寧に専門的な検証を行なっている一方、その怪しさゆえ大手メディアでは触れられないような真偽不明の"生々しい一次情報"も多数転がっています。
例えば、侵攻開始から数日後に英語圏のSNSや掲示板を深堀りしていたところ、ロシア軍の現場で使われている無線通信だとされる音声データがリアルタイムで垂れ流されていました。長時間聴いていると、漁船の無線などに交じって時折、「本物」ではないかと思わせる緊迫感のあるやり取りも......。
僕はロシア語を理解できませんが、本当かウソかもわからず、しかしきっとそうなのではないかという思いと共に何時間もBGMのように聴き続けてしまいました。
映像もしかり。ジャーナリストが戦地からSNSでレポートをすることは過去にもありましたが、今回は今まさに被害を受けている市民が、報道メディアなら"自主規制"するような生々しい動画や写真をアップしています。
遠く離れた地でもこれほど「リアル」に触れられる戦争は過去になかったように思います。その上、ロシアのプーチン大統領は気化爆弾や原発攻撃、一般市民への無差別発砲、ミサイル攻撃など、ありとあらゆる「非道」を行なっており、国際情勢に疎(うと)い人でも感情移入しやすい。
その結果、先進国では強い世論が喚起され、情報不足もあって一般人の関心が薄かったかつてのシリア内戦とは打って変わって「ウクライナを救おう」「ウクライナ人を難民として受け入れよう」という機運が盛り上がっています。このことが、国際社会による今後の制裁やウクライナへの支援にまで影響してくる可能性もあるかもしれません。
当然、ネット上にはプロパガンダ目的の"作られた情報"も多いため、疑いの目を持って情報の真贋を見極めようとするリテラシーは必須です。また、戦地で死に直面する人々の境遇を一瞬であっても共有することがメンタルをすり減らす行為であることは間違いありません。
それでも僕は、できることなら多くの日本人がこうした情報に触れるべきではないかとの思いがぬぐえません。国内でもにわかに安全保障の議論が活発化していますが、今まで通り憲法改正に「賛成」と「反対」の両陣営が現実感のないまま理屈をこねくり回すより、戦争のリアリティを"疑似体験"することにもなんらかの意味があるのではないか、と。
そこには殺す人、殺される人がいて、それを助けられない自分がいる。それでも、これから何ができるのか、何をするべきか? 自分が暮らす国や社会はどうあるべきか? 今の枠組みの中で平穏をずっと維持できるのか? あるいは、難民となった人々をどう受け入れていくのか? ウクライナ難民は受け入れ、ロヒンギャ難民やシリア難民を受け入れないことに道理はあるのか?
......傍観者ではなく、当事者としてさまざまな問いと向き合うことで、今まで「あえて曖昧にしてきた議論」の輪郭が見えてくるかもしれません。
理念や理想や平穏はとても大事です。しかし、それらが「現実」にフタをしてしまっていないか。戦地の情報を追い続けていると、そんな思いが呼び起こされます。
●モーリー・ロバートソン(Morley ROBERTSON)
国際ジャーナリスト、ミュージシャン。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。レギュラー出演中の『スッキリ』(日テレ系)、『報道ランナー』(カンテレ)、『所さん!大変ですよ』(NHK総合)ほかメディア出演多数。昨年はNHK大河ドラマ『青天を衝け』、TBS系日曜劇場『日本沈没―希望のひと―』への出演でも話題に!