『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、ロシアのウクライナ侵攻で書き換わった世界の「現実」を前に、日本に問いかけることとは――?

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ロシアのウクライナ侵攻に関する日本のテレビ報道は、過去の国際問題や紛争と比べると、起用すべき専門家や議論すべきテーマの選定という面でかなり頑張っていると感じます。ただ、やはりこういった局面ではアメリカのテレビニュースのリアルタイム性やリアリティ、解説の正確さは相当なものがあります。

ファクトに基づいて戦況の解説をするのは、つい最近までイラクに駐在していた元司令官や国防総省の大物OBなど、限りなく現役に近い専門家。さらにその解説と並行してスプリットスクリーン(画面分割)を駆使し、その頃ポーランドの首都ワルシャワではこう、一方ウクライナの首都キエフではこう、といった臨場感あふれる演出がなされ、思わず感情をかき立てられます。

これからロシア軍はどんな作戦を取りうるか、NATOが条約第5条(加盟国への攻撃はNATO全体への攻撃と見なす)を発動するのはどんなケースか、そのときどんな展開が考えられるか、生物・化学兵器や核兵器の使用の可能性とそのシナリオはどんなものか......。

遠慮のない生々しい解説に、まるで自分が軍の会議に出席しているような気分になり、そして第3次世界大戦および核戦争、あるいは東西冷戦以上にデカップリング(分離)されたマーベル作品的な新しい世界秩序についての想像を広げざるをえません。

この戦争で世界の「現実」はすっかり書き換わりました。例えば、欧米が脱ロシアに舵(かじ)を切ったことは、すなわち「線を引く」ことの前例ができたということ。となれば、次は状況次第で中国に対するデカップリングも現実味を帯びます。

もっとも中国とロシアでは経済規模もサプライチェーンにおける重要度も大きく違うため、簡単な話ではありませんが、民主主義陣営が"強い意志"で連携し、行動する機運が生まれていることは間違いありません。

このゲームチェンジで日本に何が起きるのか。いろいろありますが、包括的に言えば、見て見ぬふりが通用しなくなり、今まで考えなくてもよかったことを考えなければいけなくなる、ということでしょう。

例えばエネルギー政策。「原発を攻撃されたらどうするんだ」から「脱ロシアとエコを両立させるには原発しかない」まで、不都合な話題もすべてテーブルに乗せて、各政党でハードにやり合うことが求められます。賛成派も反対派も、詭弁(きべん)の応酬ではなく、透明性のある大人の議論をすることこそが国民の利益に資するという空気を醸成していかなければなりません。

安全保障についても同様です。どのようなリスクが想定され、そのためにいかなる能力を保持すべきなのか。そのコストはどの程度か。中国を見ても、北朝鮮のミサイル実験を見ても、先送りし続けている余裕はもうありません。

そして、先ほども触れた中国依存からの脱却。これは日本だけでなく世界の課題です。各国が目先の利益を追い求めて独裁政権とその市場に依存し、圧政や人権蹂躙(じゅうりん)を黙殺し続けることが、未来にどれほど深い影を落とすのか。

ウクライナで起きていることを見れば、現在の依存体制を維持することが論理的にも情緒的にも難しいことは言うまでもありません。すでに賽(さい)は投げられたのです。

●モーリー・ロバートソン(Morley ROBERTSON)
国際ジャーナリスト、ミュージシャン。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。レギュラー出演中の『スッキリ』(日テレ系)、『報道ランナー』(カンテレ)、『所さん!大変ですよ』(NHK総合)ほかメディア出演多数。昨年はNHK大河ドラマ『青天を衝け』、TBS系日曜劇場『日本沈没―希望のひと―』への出演でも話題に!

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