『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが中国リスクについて指摘する。
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国の根幹をなすエネルギーをロシアからの輸入に依存していたドイツの現状を見ると、あらためて「カントリーリスク」の重大さを考えさせられます。ドイツ政府はウクライナ侵攻後に慌ててロシアのガス・石油・石炭に頼らない方針を打ち出しているものの、急激な方針転換による社会への影響は計り知れません。
日本における最大のカントリーリスクは、言うまでもなく中国との経済関係です。JETRO(日本貿易振興機構)の調べによると、2020年の日本の貿易総額に占める対中貿易の比率は過去最高を記録。
もはや「中国抜きでは食っていけない」状態ですが、対外拡張の野望を隠そうともしない人権軽視の独裁国家にベットし続けるのは、今回のロシアの例を考えても、あまりにリスキーだと言わざるをえません。
しかしながら、多くの日本人はまだその現実を真剣に見詰めていないように見えます。私も企業や団体の講演会などで、(企業の名指しはしないまでも中国でのビジネスが「人質」に取られているとわかるニュアンスで)カントリーリスクについて語ることがありますが、どこか遠い世界の出来事のようなふわっとした受け止め方をされることが多い。「ああ、またその話ですか」くらいのトーンでしょうか。
精神科医のエリザベス・キューブラー・ロスは著書『On Death and Dying(邦題:死ぬ瞬間)』で、死に向かう人の心理を5段階に分類しました。①否認(denial)、②怒り(anger)、③取引(bargaining)、④抑うつ(depression)、そして⑤が受容(acceptance)。人の死になぞらえるのはやや乱暴かもしれませんが、チャイナリスクと向き合おうとしない心理にも、似たような側面があるように感じられます。
まずは、そもそも中国リスクなどたかが知れているとか、グローバルなサプライチェーンに深く組み込まれた中国が排除されることなどありえないとか、問題の存在自体を否定する(①)。
次はそれをしぶしぶ認識しつつ、「じゃあどうしろと?」「キレイ事を言っていられる状況じゃない」などと逆ギレし(②)、事実をようやく受け入れると今度は「もう少し時間が欲しい」「あそこの企業が動いたらうちも考えよう」などと往生際悪く現状維持を求めます(③)。ロシアの問題を受け、事態の深刻さに気づき始めた今の日本社会はちょうどこのあたりでしょうか。
ただ、議論を先延ばしにしたままの状態で脅威が目前に迫り、リスク回避が不可能になってしまうと、おそらく多くの人はあまりの急展開に茫然(ぼうぜん)自失となります(④)。そして社会的・経済的な大混乱に押し流されるようにして、ようやくすべてを受け入れる(⑤)ことに――。
もちろん経済は国家にとって極めて大事です。特に、豊かだった国が貧しくなれば、国民が幸せを維持し続けることは難しいでしょう。ただし、その経済の根幹部分に問題やリスクがあるとしたら、目先の利益を優先して目を背け続けたり、問題が表面化しないことを祈りながら現状維持を続けたりするのは正しい選択でしょうか?
この期に及んでもなお、中国依存という危険なギャンブルにベットし続けることには、政治的にも倫理的にも大いに問題があると指摘しておきたいと思います。
●モーリー・ロバートソン(Morley ROBERTSON)
国際ジャーナリスト、ミュージシャン。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。レギュラー出演中の『スッキリ』(日テレ系)、『報道ランナー』(カンテレ)、『所さん!大変ですよ』(NHK総合)ほかメディア出演多数。昨年はNHK大河ドラマ『青天を衝け』、TBS系日曜劇場『日本沈没―希望のひと―』への出演でも話題に!