当初は左派・共産主義への対抗勢力として米政界に近づいた旧統一教会。その役割が減退した1980年代以降、アメリカで教団の勢力拡大を担ったのは「スシ」と「日本人信者」だった! 『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが解説する。

■スシ戦略を支えた日本人の献金と労働

安倍晋三元総理の銃撃事件以降、自民党と旧統一教会の関係に注目が集まっています。

最初の契機は、創設者・文鮮明(ムン・ソンミョン)が反共産主義の政治活動団体「国際勝共連合」を1968年に設立したこととされています。

実際、60年代から70年代の保守政界には、過激な革命思想や労働組合の拡大を抑え込むためならどんな勢力でも利用するという安直な考えもあったでしょう。さまざまな勢力や団体が(与野党問わず)政党に食い込もうとし、政治の側もそれを受け入れた時代でした。

一方、社会が豊かになった80年代には、「思想」で人が動かない時代が到来。急進左派の活動はしぼみ、その対抗勢力と位置づけられていた統一教会も政治的には"冷戦構造の残滓(ざんし)"に成り下がるかに見えました。その統一教会と自民党の間にどのような関係が続いていたのかについては、今後明らかにされていくことを期待します。

本稿で取り上げたいのは、アメリカにおける統一教会の拡大戦略です。米政界でも70年代までは保守の共和党が「反共」の統一教会を積極的に取り込んでいたのですが、その時代が終わった80年代以降はどのような方法で勢力拡大を図ったのでしょうか。

文鮮明は80年にニューヨークで演説し、「水産物で世界の食料問題を解決し、食の救世主になる」と宣言しました。大きな物語をぶち上げるのは実に"カルトっぽい"ですが、統一教会がすごいのは、実際にストラテジックに事業を回していく点にあります。

文が設立した食品商社「トゥルー・ワールド・フーズ」は全米に生鮮魚介の流通網を構築し、同時にすしレストランを多店舗経営。流通から販売までグループで担うことで、都市部だけでなく田舎でもすしが食べられる環境を整備しました。アメリカで「スシ」が一般的な食事になった最大の理由に統一教会の存在を挙げる見方もあるほどです。

そして、このプロジェクトを支えたのが従順に寄付金を上納し、教団の手足として働く日本人信者たちであるともいわれています。

統一教会は日本で集めた献金(いわゆる霊感商法の売り上げも含まれるでしょう)をアメリカでのビジネスの原資としつつ、優秀な信者たちに海を渡らせ、合同結婚式でアメリカ人とマッチングさせることで市民権を取得させ、輸入、流通、店舗経営などの仕事に従事できる態勢を構築したのです。

文鮮明が「食の救世主」になるために寝る時間も惜しみ、薄給もしくは無給で献身的に働き続ける日本人の「勤勉の美徳」、教団の上意下達(かたつ)カルチャーを支える儒教精神、そしてカルトのマインドコントロール。

従業者の人件費や労働時間を気にする必要すらない垂直統合型の水産ビジネスが、資本主義市場で勝ちを収めるのはある意味、必然だったのかもしれません。

■日米でまったく別の顔を見せる七男

米ニューヨーク・タイムズが昨秋発表した特集記事「The Untold Story of Sushi in America」によれば現在、トゥルー・ワールド・フーズ社は全米のすしレストランの7、8割に食材を供給し、年間売り上げは500億円に及ぶそうです。

また、旧統一教会のビジネスは水産業だけでなく自動車、メディアなど多角展開で90年代、2000年代を通じて巨大化し、布教のエンジンとなっていきました。

一方、文鮮明が死去した2012年以降には教団に分派騒動が勃発。妻・韓鶴子(ハン・ハクチャ)が率いる本流の世界平和統一家庭連合(旧統一教会)から分かれたのが、七男・文亨進(ムン・ヒョンジン/アメリカでの通称はショーン・ムーン)が設立した「サンクチュアリ教会」です。

ショーンは銃を聖書に登場する「鉄の杖」であるとして神格化し、合同結婚式にも銃の持参を呼びかけ、銃規制反対を訴えてNRA(全米ライフル協会)などの保守勢力に食い込んでいます。トランプ支持者とも結託し、昨年1月の連邦議会襲撃事件では議事堂前でショーン自ら生配信を行なっていました。

銃弾を連ねた金の王冠を頭にのせたショーンの姿は滑稽な印象さえあり、日本のネットでもイジられているようですが、彼はただの道化(ピエロ)ではありません。例えば、デジタルメディア「VICE(ヴァイス)」のインタビューでは非常に雄弁で、上院議員のような頭脳明晰(めいせき)さを見せています。

支持者へのメッセージはQアノン的な陰謀論(世界を牛耳る影の政府だとか、新型コロナは生物兵器だとか)が満載ですが、思想の背景に対する基礎知識や警戒心がない人なら、ショーンのことを「ダイバーシティを体現するアジア系の優秀な若きリーダー」だと思っても無理はありません。

しかも、ショーンは銃器製造会社を経営する兄と組み、ガンライツ(銃保持の権利)と極右思想をベースにして支持基盤をフランチャイズ化しようとしています。父・文鮮明がすしを利用したのと同様に、そこには明確な計画性、戦略的な視点があります。

さらに注目すべきは、ショーン自身のキャラクターの使い分けです。ちょうどこの6月から7月にかけて、ショーンは来日布教ツアー中でしたが、公開された動画を見る限り、彼が日本の信者に語りかける口調はまるで"説教オヤジ"。

母である韓鶴子と旧統一教会に対する恨み事ばかりの次元が低い演説で、アメリカで見せる切れ者の顔は一向に見せません。ただ、これは間違いなく意図してやっていること。おそらく、それぞれの国・地域で最も布教やマインドコントロールに適したキャラクターを演じ分けているのだと思います。

政財界や社会の特定層に食い込むことにかけては、旧統一教会もサンクチュアリ教会も非常に長(た)けています。「入信する人の気が知れない」とか、「無知だからだまされるんだ」といった声も聞こえてきますが、問題はそんなに単純ではないし、解決も容易ではない。そのことは強調しておいてもいいのではないかと思います。

●モーリー・ロバートソン(Morley Robertson)
国際ジャーナリスト。ミュージシャン。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。『スッキリ』(日テレ系)、『報道ランナー』(カンテレ)といったレギュラー番組などメディア出演多数。昨年はNHK大河ドラマ『青天を衝け』、TBS日曜劇場『日本沈没―希望のひと―』への出演でも話題に!

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