『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、講演会で最近気になる傾向とは――?

* * *

自治体や企業などの講演会にゲストスピーカーとしてお声がけいただく機会があります。社会的にデリケートとされる話題について、事前に「できればあまり触れないでください」とやんわり言われることはさほど珍しくありませんが、ここ最近、気になる傾向があります。

ロシアのウクライナ侵攻や中国の諸問題について、言及しないでくれとくぎを刺されるケースが多発しているのです。

多くの場合は「不快に思われる方がいるかもしれないので」というような説明をされるのですが、「国際政治や時代の変化について話してほしい、ただしそこは抜きで」というように、都合のいい部分的な「真実」だけを語るのはプロパガンダです。

例えば「多様性を語ってほしい。ただしブラック・ライブズ・マターやトランプ前大統領の問題には触れずに」とのリクエストに応じてしまうと、巧妙な嘘をつくことしかできなくなります。

そもそも多様性に関して米国社会を分断したのはトランプであるという「問題の本質」をスルーし、美辞麗句だけを語るのは、どう見ても情報操作なのです。

ひとつ言えるのは、組織人として生きる人々が必要以上にクレームを恐れ、先回りして火消しをし、とにかく無難なやり方を必死で模索しているように見えることです。

パラダイムシフトが起きつつある、古いマニュアルが機能しなくなった、そこから抜け出す勇気が必要だ......といった論旨には同意してもらえるのに、具体的な話になると口をふさごうとする。

株主やお客さまの"お気持ち"を慮(おもんぱか)っているのか、それとも中国やロシアの企業と取引があるのか。いずれにせよ、いち講演ゲストの発言にまで神経を尖らせるのは杞憂(きゆう)でしかないと思うのですが。

とりわけ大企業に長年勤める人たちは、ブック・スマートではあってもストリート・スマートがないと感じることが少なくありません。国際情勢・社会情勢に無関心で、自身の半径数メートル範囲でしか物事を見ず、それゆえ無邪気に"検閲"をかけてくる。

多様性、環境、独裁政権とグローバル経済の依存構造......といったイシューは、物価高など身近な問題と有機的に接続しているのだから、ひとまとめに受け止めるしかないはずですが、「ここまでは語っていい」「ここからはダメ」と線を引くことの無意味さ、それを無邪気に求めてしまう体質の危うさに気づいていない。それは何かを守る以上に、何かを失うリスクをはらんでいます。

例えば、企業としてSDGsへのフルコミットを掲げつつ、中国など周辺国の人権問題には無頓着といった態度は、「事なかれ」を最優先した思考がドミノ倒しになり、袋小路に陥っていると言わざるをえません。

その結果、「プーチンの戦争は正しい」と多くの人が信じるロシア社会を思わせるような集団逃避が起きてしまう。閉じられた空間の内側でしか通じない論理が支配するパラレルワールドのようなものです。

どんな国にも不都合や矛盾はありますが、進歩できるかどうかの分かれ道は、それをタブー視してしまうか、それとも混乱が生じるのをいとわずに忌憚(きたん)なく議論するかです。

偏食家のビュッフェのように、一部の好きなものしか皿にのせないような議論は、社会にまともな栄養をもたらすことはないでしょう。

●モーリー・ロバートソン(Morley ROBERTSON)
国際ジャーナリスト、ミュージシャン。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。レギュラー出演中の『スッキリ』(日テレ系)、『報道ランナー』(カンテレ)ほかメディア出演多数。富山県氷見市「きときと魚大使」。昨年はNHK大河ドラマ『青天を衝け』にも出演

★『モーリー・ロバートソンの挑発的ニッポン革命計画』は毎週月曜日更新!★