『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、安倍政権が便乗した"右翼ブーム"について語る。
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安倍晋三元首相の国葬に関連して、安倍政権をファシズムに近いものとして評する言説が飛び交いました。確かに安倍元首相が「美しい国」を標榜(ひょうぼう)し、"右翼ブーム"に便乗してきた過程で、社会の分断がより深まったという点には私も同意します。
とはいえ安倍政権がやってきたことや、それにより醸成された社会の空気は、ファシズムと呼べるような仰々しいものではなかったとも指摘しておきたい。
旧統一教会との関係も含めて明らかになったのは、自民党には一貫した思想や信念などなく、あくまでも権力維持装置であるという現実です。そんな政権・政党が、本当の意味でファシズム的に日本人の思想・信条を束ねる未来は想像できません(そう思いたい人はたくさんいるのかもしれませんが)。
では、今回いよいよ終焉(しゅうえん)を迎えそうな"右翼ブーム"とはなんだったのか。私なりに総括すると、当初は、東西冷戦終結後も窮屈で不自由な言論が支配していた左派論壇への反発だったのだと思います。
当時の"喧嘩上等(けんかじょうとう)"なオンラインカルチャーの勢いもあり、風通しの良さと"なんでも言える空間"を求める若い人たちの間では、反権力的で傍若無人な放言をする人物をネット内から匿名で応援する風潮も広がりました。
ところがその後、インターネットが若者の間でより一般化すると、一部の人々がそういった露悪的で過激な言論をすべて本気にして「真実に目覚めてしまった」。やがてネットリテラシーのない高齢者たちもそこに乗っかり、何層もある"ウエハース状態"で右翼ブームが膨らんでいきました。
安倍政権はそこに利用価値を見いだしたわけですが、なんでも利用するのは自民党の常套(じょうとう)手段です。得票につながるなら創価学会(公明党)にも、統一教会にも、生長の家にも接近する――そこに統一されたイデオロギーなどあるわけがありません。
"なんとなく右翼"のイメージを保ちながら、あらゆる相手とコンビニエンスに手を組み、各派閥に閣僚ポストを分け与えて党内を掌握する。安倍元首相はそんな自民党政治をわかりやすく体現した人物であったのだと思います。
権力がコンビニエンスな関係性に依拠する例は海外にもあります。例えば米共和党は、本来ならイデオロギーがそれぞれ異なるキリスト教福音派、白人至上主義者、銃規制反対派、リバタリアンを無理やりひとつに束ねたいびつな集団になっており、その成れの果てがトランプ前大統領の"共和党ジャック"です。
そう考えると、日本(あるいは自民党)でも未来シナリオとしてありえるのは、ファシズムよりも極端なポピュリズムなのかもしれません。
さらに言えば現在、四面楚歌のロシアに接近している中国や北朝鮮も、プーチン政権のイデオロギーに共感しているわけではありません。あくまで「アメリカにいい思いをさせたくない」という点において一致しているだけです。
こういったコンビニエンスな"契約的関係"は、確かに短期的には有効ですが、互いに損得勘定で動いているため、力がなくなれば裏切られるし、弱みを見せればつけ込まれる。自民党がさまざまな利益団体と結んでいる関係も、おそらくはそういうものなのではないでしょうか。
●モーリー・ロバートソン(Morley ROBERTSON)
国際ジャーナリスト、ミュージシャン。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。レギュラー出演中の『スッキリ』(日テレ系)、『報道ランナー』(カンテレ)ほかメディア出演多数。富山県氷見市「きときと魚大使」。昨年はNHK大河ドラマ『青天を衝け』にも出演