『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが独裁体制の脆弱さについて指摘する。

* * *

ロシアのプーチン大統領が発動した予備役の部分動員令は国民の混乱と反発を招き、皮肉にも現体制の脆弱(ぜいじゃく)さを露呈してしまいました。

動員令発令の直後には、決して少なくない数のロシア人が、徴兵から逃れるためにキルギスやカザフスタンなどへ脱出する様子も報じられました。

これらの国は旧ソ連圏内の"衛星国"としてロシアが見下していた存在でもありますが、この肝心なときに徴兵逃れの"裏切り者"の逃げ場となり、しかも現地では裕福なロシア人がお金を落としてくれる機会として、喜んで受け入れるケースもあったようです。

振り返ってみれば、プーチン政権に最も友好的なはずのべラルーシのルカシェンコ大統領でさえ、ウクライナ侵攻開始から半年以上もプーチン大統領の協力の求めをのらりくらりとかわし続け、「巻き込まれるのは避けたい」という本音は明らかでした。

10月になってようやく「ロシアとの合同部隊」の形成を進めると発表しましたが、それまでの経緯を考えると"従順な子分"という雰囲気でもありません。もちろんプーチン大統領に同情の余地は一切ありませんが、自分に進んでついてくる者がこれだけ少ないという孤立感を今、どう考えているでしょうか。

大規模な反政府デモが広がるイランにも似た空気を感じます。事の発端は、スカーフの着け方をめぐり風紀警察に逮捕された22歳のクルド系女性が死亡した事件と、SNSでこの問題を批判するパフォーマンスを行なった16歳の少女が当局に殺害されたとみられる事件。

イラン国内の若者たちの反政府運動に国外のセレブや著名人らも連帯し、大きなうねりを生んでいます。核開発で欧米を揺さぶろうとしていた強権的な政府が、スカーフをきっかけに国内外から重圧をかけられているのはなんとも奇妙な光景です。

ちなみに、イランの男性シンガーが政権批判のツイートを寄せ集めて作成した曲がたちまち拡散され、反体制運動の"公式ソング"になっているようですが、これも実に現代っぽい現象です。

かつてピーター・ガブリエルが南アフリカの反アパルトヘイト運動家スティーブン・ビーコーに捧(ささ)げた楽曲『Biko』が世に出たのは、ビーコーが当局に拷問され死亡してから3年後のことでした。しかし今回は、運動の当事者たちによりリアルタイムで曲が拡散され(しかも詞の内容は英訳付き)、国内外で火がついているわけです。

ロシアにしろイランにしろ、これまで欧米諸国は独裁体制を暴走させないようになんとか付き合ってきた経緯があります。しかし、いざ足元が崩れ始めてみれば、その実態は"house of cards"、つまりトランプで組み上げた家のようにもろかった――ということになるかもしれない。

今の状況が体制崩壊の決め手になるといえるほど単純な話ではありませんが、ジワジワと外堀を埋めて社会を動かすようなかつての時代と、ネット中心の現代とのスピード感の違いをはっきりと感じます。

こうしたもろさを抱えているのは、今や"権威主義陣営のラスボス"感のある中国も同じはずです。世界が動くスピードが極めて高速化しつつある中、歴史の証人になるために、今何が起きているのかしっかり見ておくべきでしょう。

●モーリー・ロバートソン(Morley ROBERTSON)
国際ジャーナリスト、ミュージシャン。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。レギュラー出演中の『スッキリ』(日テレ系)、『報道ランナー』(カンテレ)ほかメディア出演多数。富山県氷見市「きときと魚大使」。昨年はNHK大河ドラマ『青天を衝け』にも出演

★『モーリー・ロバートソンの挑発的ニッポン革命計画』は毎週月曜日更新!★