『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、加速する中国の独裁体制について指摘する。
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中国・習近平(しゅう・きんぺい)国家主席の3期目続投が確定しました。政敵を排除し、恐怖政治と愛国心と資本主義を一体化させながら権力基盤を固めた2期10年。
そして3期目に当たっては、自身の思想を絶対化する党規約の改正を行ない、党指導部を側近と腹心で編成――。なぜ毛沢東(もう・たくとう)の後を追うような独裁路線を邁進(まいしん)してまで、彼は権力に固執するのでしょうか。
鄧小平(とう・しょうへい)以降の改革開放路線における中国は、自分たちの政治的理想に目をつぶって欧米や日本と経済的に相互依存することを選び、圧倒的な数の人口を燃料として目覚ましい経済的発展を遂げてきました。
一方で、一部の共産党員はその構造に寄生するかのように私腹を肥やした。習指導部が発足した10年前に「トラもハエもたたく」と宣言して始まった反腐敗闘争では、計464万8000件の腐敗案件を摘発したと中国共産党は発表していますが、このキャンペーンは当初、確かに人民の不満のはけ口にもなっていたでしょう。
しかし、それはやがて独裁を確立するための"魔女狩り"の様相を強めていきました。加えて近年は、欧米の影響力や価値観の流入を警戒するあまり巨大IT企業を締めつけ、芸能界やゲーム業界などに対するエンタメ規制も強化し、果ては「教育改革」でオンライン学習産業をも一網打尽にしました。経済を犠牲にしてでも"体制の護持"が最優先になっているように見えます。
今回の党大会で習氏は、今後5年間の重要目標として「海外に依存しないハイテク技術の開発を加速させる」と述べましたが、現在の体制下でイノベーションが必要な産業を成長させていくことは難しい。
あれだけ自由が制限され、アリババ創業者ジャック・マーのような俊英が突如として表舞台から消し去られてしまう社会で、スティーブ・ジョブズ的な"反骨の天才"が生まれる可能性は極めて低いでしょう。
今後、各国は脱中国依存を進めていくことになり、しかし習政権はひるむことなくかたくなに強権政治を加速させていくでしょう。"弱さ"を見せた瞬間、自分がパージしてきた勢力に巻き返しのチャンスを与えることになる――習氏のみならず、周囲を固めるイエスマンたちもそのような思考回路に陥るであろうことは想像に難くありません。
自らがやってきた苛烈な権力闘争の副作用により、もう後戻りができないのです。恐怖を使って支配する人間は、誰よりも恐怖におびえているからこそ、破滅的な行動を取る。シェイクスピアの悲劇『マクベス』で描かれた主人公の姿そのものです。
プーチン政権が抱える多くの問題点を認識しながらもロシアのエネルギーに依存していた欧州各国は今、痛みを伴う決断を強いられています。同じようなことが未来の日中関係に起こらないと誰が言えるでしょうか。
改革開放路線の時代によく聞かれた「政冷経熱」という選択肢は、今や現実逃避に近い。無責任に「これで中国は崩壊する」とは言えませんし、未来は誰にもわかりませんが、少なくとも習氏のテーブルには今後、台湾の武力統一も含めた相当に強硬な選択肢が乗り続けることになる。
そんな国とどう付き合っていくのか? 隣国としてどんな備えをすべきなのか? 認識を改める時が来ていると感じます。
●モーリー・ロバートソン(Morley ROBERTSON)
国際ジャーナリスト、ミュージシャン。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。レギュラー出演中の『スッキリ』(日テレ系)、『報道ランナー』(カンテレ)ほかメディア出演多数。富山県氷見市「きときと魚大使」。昨年はNHK大河ドラマ『青天を衝け』にも出演