小さなまちの市長になった真意を語る安芸高田市長の石丸氏小さなまちの市長になった真意を語る安芸高田市長の石丸氏

元法相による買収事件。広島県安芸高田市の市長や市議も現金を受け取っていた。そこで「これではダメだ!」と立ち上がったのが京大卒・メガバンカーの石丸伸二(いしまる・しんじ)だった。キャリアを捨てて、なぜ、小さなまちの市長になったのか? 徳島市長・内藤佐和子氏に続き、その真意を聞いた。

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■出馬を決意したのは、投票日の約1ヵ月前!

京都大学を卒業し、三菱UFJ銀行に入行。その後、米ニューヨークに駐在し、為替アナリストとして9ヵ国を担当していたエリートバンカー石丸伸二氏は、突然、人口約3万人の小さな市の市長選挙に出馬した。

そして、市長に当選してからは、市議会とバチバチのバトルを繰り広げている。

彼はなぜ、広島県安芸高田市の市長になったのか? そして、何をしたいのか? 本人に直接、聞いた。

――早速ですが、なぜ、『週刊プレイボーイ』の取材を受けようと思ったんですか?

石丸 声をかけていただいてすぐ、『週刊プレイボーイ』をコンビニに買いに行ったんですよ。そのときに、わざわざ隣の市まで行ったんですけど、店員の人から「市長ですよね?」って話しかけられたんです。

そのとき、とても恥ずかしかった。いや、週プレが恥ずかしい雑誌だと言っているのではなくて、変に人目を気にして、わざわざ市外に行ったという自分の行為が恥ずかしかったんです。普通に自分の市で買っておけばよかったと反省しています。

それはさておき、私は、大きな声では言えないんですが〝メディアファースト〟というポリシーがあります。メディアの力は依然として圧倒的に強いと思います。ですから、新聞でもテレビでも優先して対応しています。

そんな中で、週刊誌からはなかなか声がかからなかった。ですから「待ってました!」という気持ちです。

――ちなみに、マンガがかなりお好きだと聞きました。

石丸 そうなんですよ。すごく好きで、持っている単行本は1万冊を超えています。読んだ本は、もっとありますね。もちろん『週刊少年ジャンプ』は『るろうに剣心』が始まった頃から読んでいます。

『ONE PIECE』の第1話もはっきり覚えてるんですよ。ルフィを助けるために腕を失ったシャンクスから麦わらの帽子をもらって「海賊王におれはなる!!!!」と叫ぶ。すごく衝撃的な始まりでした。

――週プレといえばグラビアですが、好きなグラビアアイドルはいますか?

石丸 そのへんは、実はうといんですよ。ただ、江頭2:50さんのユーチューブが今、すごく人気ですよね。それで、代々木アニメーション学院の入学式での挨拶が感動的だったので、江頭さんの動画を追っているなかで、江頭さんが大好きだというグラビアアイドルの風吹ケイさんを覚えました。

あと、綾瀬はるかさんが高校の後輩なんですよ。私が3年生のときの1年生で、グラウンドを走っていたのを見たことがあります。それ以来、陰ながら応援しています(笑)。

――意外とエンタメに詳しいですね(笑)。で、本題に入りますが、エリートコースまっしぐらだったのに、なぜ、安芸高田市の市長になろうと思ったのですか?

石丸 私は、もともと自分の住んでいた田舎(安芸高田市)が嫌で外に出ていった人間です。そして、銀行員のときにニューヨーク駐在になり、南米のブラジルやアルゼンチンを担当しているときに「ずいぶん遠くまで来たな。もう、これより遠い場所はないんだな」としみじみ思ったんです。

すると、逆にそれまで嫌だった地元に何か恩返ししなければいけないという気持ちが強くなっていました。

その後、2020年に東京に戻って仕事をしていると、河井克行元法相から現金をもらっていた安芸高田市長が辞めたので、副市長が市長選に立候補するというニュースを見ました。しかも、ほかに立候補者がいないので、無投票で副市長が次の市長になると。

そもそも、辞任した市長は前の市長の後継として無投票で就任していました。この副市長は、そうしたふたりに仕えていた人です。

すると、お金をもらって辞任した市長が4年後にまた戻ってくるという筋書きまで想定できました。河井事件の後ですらそんなことを繰り返そうとしているのなら、ここを断ち切らないといけないと思って出馬しました。

――でも普通は、これまでのキャリアを捨てて、落選するかもしれない市長選に出ようとは思わないですよね。

石丸 これは私の傲慢(ごうまん)なんですけど、このキャリアがあれば当選できるんじゃないかと思ったんです。

普通だったら、地元にひょいと帰ってきた若造に市長なんか任せられませんよね。それに、相手は行政経験が長い副市長で、前市長も政治的に託しているわけですから。そんな人を引きずり下ろすには、相当インパクトがある人じゃないと無理です。それが自分だったらできるんじゃないかと思ったんですよ。

地元で育って、これまでの学歴とキャリアのすべてが、今なら使える。だから迷いませんでした。

――でも、かなりのリスクがありますよね。

石丸 石丸伸二という個人の人生で考えたら、全然、割に合わないです。でも、社会として考えたら、たかが私ひとりの人生じゃないですか。リスクとリターンを考えたら、めちゃめちゃコスパがいいんです。損失は限定されていて、得るものはものすごくでかい。金融の人間として〝買い〟ですよ。

――まったく迷わなかったんですか?

石丸 迷わなかったですね。副市長が立候補するというニュースを見た翌日の7月8日は在宅勤務だったので、「退職します」と会社に連絡を入れました。1ヵ月後が投開票日だったんですけど、そのとき、選挙の準備はまったくしていません。

――どうしたんですか?

石丸 東京にいたので、とりあえず地元に帰って、近所のおじちゃんおばちゃんに「今度の市長選挙に出ようと思うんだ」って言ったら、みんな腰を抜かしてました(笑)。

それで「あんた、なんか準備してるんか?」「まだ、なんもないよ」「そりゃ、いけん」って私の親世代の人が力を貸してくれたんです。だから、若い力で選挙に勝ったわけではなくて、親子世代の共闘ですね。

――そのとき、周りの反応はどうでした?

石丸 自分で言うのは変ですが、こういう人間を待ち望んでいたのかなと思いました。近所だけじゃなくて、遠くの町のおじさんおばさんたちも「よく帰ってきてくれた」って迎え入れてくれたんです。河井事件から続く政治腐敗の流れを断ち切ってくれる存在を待っていたんだと思います。

――でも、勝ってよかったですね。

石丸 いや、勝ちが見込めないと私は勝負しませんから。勝てる勝負だと読んでいたので出たんですよ。万が一、負けてもリスクは限定されるので、すごく合理的な決断なんです。

■「石丸市長が悪い」それでいいんです!

投票日の約1ヵ月前に市長選に出馬表明し、相手候補に大差をつけて当選。6月に議員定数を半減する案を提出したが否決されるなど、市議会議員とバトル中投票日の約1ヵ月前に市長選に出馬表明し、相手候補に大差をつけて当選。6月に議員定数を半減する案を提出したが否決されるなど、市議会議員とバトル中

――今、安芸高田市にはどんな問題があるんですか?

石丸 河井事件では、市長のほかに3人の市議が辞職しました。もしかしたら、似たようなことをしている人が、ほかにもいるかもしれません。だから私は、ここまで市は病んでいるのか、と。言葉を選ばずに言えば、腐っているのかと思ったんです。

そして、こうした政治を取り巻く状況は、安芸高田市や広島県だけでなく、日本全体に蔓延(まんえん)しているんじゃないかと思っています。

――だから、議会で居眠りしていた市議を注意したんですか?

石丸 「ダメなことはダメ」ということを知ってほしかったんです。あのときも、本人が「すみません。うっかり寝てしまいました」と謝れば、それですんだんです。

でも、議会が「あいつは悪くない」とかかばうんですよ。そして、病気だと診断書を議会に提出したら黒塗りの部分がある。黒塗りがある診断書って、なんなんですか?

――だから、まずは市議の意識を変えようということですか?

石丸 よく聞かれるんですけど、彼らが変わるとは思っていません。人はそんな簡単に変われないと思っています。

私は好きなたとえ話があるんですよ。天動説と地動説ってあるじゃないですか。あれって、どうやって常識が変わったと思います?

天動説を信じている人が、地動説に考えを変えたわけではないんです。天動説を信じていた人がみんな死んで、地動説を信じる人が多くなったからなんです。世代交代が起こって常識が変わったんです。

だから、私は彼らの意識を変えようということはまったく考えていなくて、市民や世の中に対して「こういうことをしたらダメですよね」「こういう政治家になっちゃダメですよね」ということを伝えようとしているんです。

――その後も、市長が全国公募で選んだ副市長人事や、議員定数半減案を議会側は否決していますよね。絶賛バトル中ですが、今後も議会とバチバチ戦っていくわけですか?

石丸 私は別に議会とケンカしようと思っているわけではなくて、ダメなことを指摘しているだけなんです。市民からは「市長は議会とケンカして何をやってるの?」と見えるかもしれませんが、「あなたの選んだ議員はこういう人なんです」と示しているだけです。

――じゃあ、もし議会がまともだったら、どんな改革をしたいと思っていますか?

石丸 実は、議会がまともだったとしても、やることはあんまり変わらないと思います。というのは、議会の同意を得て新たに何かを生み出す事業は、財政的な面からほぼできません。(第1弾で登場した)福岡市のような都市構想とか再開発みたいな景気のいい話はできないんです。

全国の多くの自治体が、今、やらなければいけないのは「この事業はやめます」「この建物は潰します」というリストラです。でも、それをやると市民から嫌がられるし、議会からは文句が出る。

――なぜですか?

石丸 例えば、町から図書館がなくなるとか、公民館がなくなるというのは、市民にとってはサービスが減る話なので嫌ですよね。だから、多くの首長は手をつけたくない。2期、3期を目指しているなら、なおさらです。

でも、私は1期4年の中で、できるだけリストラをやっていく覚悟で市長になりました。だから、年間の経費が約2000万円かかる美術館の廃止を決めました。それから、中学校の統合です。子供たちのためには必要なんだけれども、地域の反対が必ずついてまわる。人気を得ようとしたらできませんよね。

だけど、私は人気を得ようと思わないから、迷わずに合理的な判断をします。できれば、あと2年弱の任期のうちに中学校統合のめどはつけたいです。

もう、市民の不平不満は「石丸市長が悪いんだ」でいいんです。「あいつがやらかしたんだ」と個人の責任になって、それでこの市が維持できるのなら、コストは安いですよね。

――市の収入を増やすことはできないんですか?

石丸 基本的には無理です。安芸高田市の自主財源は3割弱しかありません。あとは国からもらう交付金です。その金額は人口で決まります。人口が減少している自治体は、交付金が下がり続けます。

ふるさと納税も考えられますが、強力な特産物がない田舎だと難しい。だから、歳出を減らしていくしかないんです。

――人口の減少を抑えることは?

石丸 今の調子だと減り続けますよ。そして、正直な話、安芸高田市は財政的に維持できなくなって、あと20年くらいで潰れます。でも、これはうちに限ったことではないんです。多くの自治体がそうなります。

なぜかというと、80年代のバブルの頃に造ったインフラ、道路、橋、建物の更新の時期がだいたい20年後にやって来ます。そのお金が捻出できない。

だから、今、やっているのは延命措置です。私は、その間に日本社会が変わってくれることにかけています。そうじゃないと、日本は地方のまちによって滅ぶと思います。

――じゃあ、どうすればいいんですか?

石丸 可能性があるとすれば、ショック療法です。

日本は今〝ゆでガエル〟状態で、だんだん温度が上がっていて、気づいたら死んでいたということになってしまう。そのときに「アチッ!」と飛び出すきっかけが必要で、そのひとつに地方がなれるんじゃないかと思っています。

私みたいな小さなまちの首長でも、「それはおかしいでしょ!」と間違いを指摘する。そうしているうちに正常な判断ができる人が、少しずつ政治の世界に入ってくる。そして、最終的に日本を変えていきたいんです。

「うちだけじゃなくて、あなたの市の議会でも、寝ている議員がいるんじゃないですか?」というのが、私の問いかけたいメッセージなんです。

――ありがとうございました。

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「地方から日本を変える!」まるでマンガのようなストーリーかもしれないが、だからこそワクワクするし、その結末を見てみたいと思う人は多いのではないだろうか。

●石丸伸二(いしまる・しんじ) 
1982年8月12日生まれ。広島県安芸高田市出身。2006年、京都大学経済学部を卒業し、三菱UFJ銀行に入行。金融市場部などで分析・予測をするアナリストとして活動。2014年、アナリストとしてニューヨークに赴任。4年半にわたり、アメリカ大陸の主要9ヵ国を担当する。20年8月の安芸高田市長選挙に立候補し、相手候補を大きく上回る得票数で当選