ウクライナ戦争での日本の戦果のひとつが「蟹食べ放題」といえるだろう ウクライナ戦争での日本の戦果のひとつが「蟹食べ放題」といえるだろう
ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。本連載ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT Open Source INTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索していく!

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――本連載第14回の「ゼレンスキー大統領に『統帥権』はあるのか」を再読してみて、日本のG7やロシアに対する立ち回り方は最善に近いのかなと感じました。

佐藤 そう思います。ただし、メディアの報道とのギャップがあり過ぎますよね。

それだけを見ていると、日米はロシアを完全に追い詰めるような制裁を加えて、ウクライナを力強く支援しているように見えています。しかし、実態が全然違う現実が伝わって来ません。これはひとえにメディアの怠慢ではないかと思います。

ウクライナに渡した支援は40億円分なので、日本の高速道路の建設費に換算するとたったの800mです。豪華客船の『飛鳥2』を所持する日本郵船が一社で一年で1兆円の利益を上げています。同じように建設費に換算すると188km分にもなります。

――外交交渉の現場にいる人たちは、その事実を理解しているのですか?

佐藤 あまりお金を出してないことは当然分かっているので、日本の報道と全然違うことは理解しています。これはある意味、日本国民を愚弄してる話だと思いませんか?

――「バカな国民にはわからないよな」という声が聞こえてきますね。

佐藤 たとえば、いま日本の居酒屋で「蟹フェア」をよくやっているじゃないですか。

――たしかに、よく見かけますね。

佐藤 これは、米国がロシアからの輸入を全面禁止にしたのに対して、日本はロシアに何も制裁をかけていないので、その分が全てに日本に流れて来ているということです。だから、ウクライナ戦争前よりも海産物は安くなっています。

――確かに、高級品のイクラを具にしたコンビニのおにぎりが、ほかの種類のおにぎりと同じ様な価格で並んでますね。

佐藤 イクラが昆布のおにぎりと変わらなくなったのは最近の現象ですよ。

――すると、コンビニのイクラのおにぎりは、日本国民が手にした、ウクライナ戦争の戦果の一つでありますね。

佐藤 そう言ってもいいでしょう。日本タバコ(JT))の純益の1/4はロシアからですし、石油も上限価格より高い値段でロシアから買っています。でも、それを国民は知りません。もちろん公開情報にそのような事実は出ています。

――それは、わざと知らせていないのですか?

佐藤 メディアが自分の頭で考えず、情報操作された"誘導"にすぐに乗っちゃうのです。その方向で報道すると自縄自縛になってしまうので、各メディアはウクライナとイギリス
の大本営発表を垂れ流しているだけになるのです。

――それは日本のメディアだけですか?

佐藤 西側メディア全体がそうですよ。みんな「集団思考」に入りこんで、ハーメルンの音楽隊の笛吹き男の後に付いている子供のような感じになっているのです。

だから、ファクトをベースにして、ちゃんと自分の力で読み解いていく事がとても重要になって来ていると思います。前提として、プーチン大統領の演説やさまざまな数字などを分析して、自らの頭で判断しないといけません。

たとえば、第14回の連載でも話題にしましたが、日本が夏の季節に、ウクライナに対して冬に使うカイロを渡す意味を考えたり、ウクライナに供与する自衛隊の保存食の缶詰の中身は何だろうと考えてみたりとか。そういう健全な疑問を持つ事が必要なのです。

――ウクライナ戦争が勃発する前の2017年に刊行された、シカゴ大教授で国際政治の専門家であるジョン・ミアシャイマーが書いた『なぜリーダーはウソをつくのかー国際政治で使われる五つの「戦略的なウソ」』(中公文庫)を読みました。

そこには、米国は基本的に戦争中や戦争を始める前にはいつも嘘をつき続けてきた、という事が書いてありました。

佐藤 戦前、戦時に嘘を付くのはある意味、常識ですからね。ミアシャイマーはリアリストで、戦争を考える時は非常に重要な論客だと思います。

――米国はイラク戦争に代表されるような「プロパガンダ戦争」を経験してきましたが、誰もそれを振り返り検証しないことが恐ろしいです。

佐藤 はい。この嘘は戦略的な嘘です。そこにメディアも含めて組み込まれてしまっている訳ですから。

――米国の場合、戦争を正当化するために、国内を説得するための嘘、という事ですか?

佐藤 そういう事です。

――まさに戦争にまつわる報道とは、「踊るアホウに見るアホウ、同じアホなら踊らにゃ、ソンソン!!」の阿波踊りのようであります。果たしてこれでいいのでしょうか?

佐藤 阿波踊りになれば、踊るのがメディアの仕事です。止めろと言っても意味がありません。

次回へ続く。次回の配信は7月28日(金)予定です。

撮影/飯田安国 撮影/飯田安国

●佐藤優(さとう・まさる)
作家、元外務省主任分析官
1960年、東京都生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了。
『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。『自壊する帝国』(新潮社)で新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞。