佐藤優さとう・まさる
作家、元外務省主任分析官。1960年、東京都生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了。『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。『自壊する帝国』(新潮社)で新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞
ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。この連載ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT Open Source INTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索していく!
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――10月2日、時事通信は岸田内閣の支持率が23%であると報じました。内閣改造をしたにもかかわらずこの支持率。佐藤さんは以前、「あの人は"深海魚"。支持率が30%以下の深海に行くと調子が出る」と分析していらっしゃいましたが、さらに深海度が増しています!! そもそも内閣改造で支持率が上がらなかった要因はなんですか?
佐藤 やはり、小渕優子を入閣させるのは相当な胆力でしたね。入れたらこうなるのは目に見えていました。
――もうひとつお聞きしたいのが、19年ぶりに外務大臣に女性が起用されました。上川陽子外務大臣であります。
佐藤 あの田中真紀子さんに似た感じかもしれませんね。外交についての経験はありません。
――すでに上川外務大臣に対して、ロシアからシグナルが出ていますが?
佐藤 上川外務大臣は発言要領通りに話したのだと思いますが、ロシアは平和条約交渉を受け止めたんでしょうね。それから、北方領土問題に関しては墓参を優先したいと言っていましたからね。
――これは上手くいきそうですか?
佐藤 外務官僚がどう受け止めるかですね。けれども、本当にやりたいのであれば何らかの形でロシアが関心を持つシグナルを送ればいいんですよ。
たとえば「サハリンからガスを買い続ける」と言えばいい。簡単ですよ。だって、岸田首相の地元の広島ガスはロシア産天然ガスを50%使用していて、止めるわけにいかないんですから。
――それをわざわざ発言することに意味があると。
佐藤 そうです。それをわざわざ口に出すことで北方領土への墓参と絡めればいい。私だったらそうします。だから、ロシアとの関係で日本が肯定できることだけを言えばいいわけです。
――この上川外務大臣の外交手腕は期待できますか?
佐藤 上川さんは外交には関心がないと思います。むしろ、林前外務大臣は外交に強い関心があったと思います。だから、皆がウクライナのゼレンスキー大統領から逃げているときに、楽天の三木谷社長など企業経営者を連れてウクライナの首都・キエフに行ったんです。これはゼレンスキー大統領から抱き付かれに行くようなものですからね。それでもやっぱり、大きな話題になりました。
私は、あれが岸田首相を刺激したんだと思います。「外交は俺の専管事項だ。チョロチョロするな」と。そして「お前は党務に精進してもらう」となった。林さんが辞めたので、ウクライナ支援に深入りしないで済んだのはよかったと思います。
――深海にいる岸田首相から"重魚雷"を食らってしまったと。
佐藤 そうですね。だから、今の外務大臣に求められていることは、何もやらないこと。岸田さんは岸田外交をやりたい。だから、上川さんは何もやらず、岸田さんから言われた以外のことは一切やらなければいいんです。
林さんは自分が岸田さんと対等だと思っていて、しかも、将来は総理になりたいと思っているから、自分で点数を稼ごうとしました。
――その点、上川外務大臣は職務に忠実で真面目な方ですよね。
佐藤 さらに、相当な圧に耐えられますしね。
――それは何でですか?
佐藤 上川さんは法務大臣時代に、何人の死刑執行を行ないましたか?
――16人の死刑執行書に署名されました。今までの大臣在任中で最多の処刑数です。
佐藤 ひとりの大臣としては先進国では記録的な数字です。そういうことを何とも思わない人なんでしょうね。
――だから深海の圧力に耐えられるのですか?
佐藤 そうです。この政権は「深海魚政権」だから、やっぱり「深海魚仲間」が必要なのです。
――その愉快な仲間のひとりが上川外務大臣。
佐藤 そうです。それから"ドリル"優子さん。
――自分の事務所にあった政治資金の資料が入ったハードディスクに、秘書がドリルをぶち込んで証拠隠滅しようとした件ですね。
佐藤 だから今、小渕さんはマスコミと一切接触していないですよね。メディアに接触すれば、ドリルの事を聞かれると自分でもわかっているわけですから。積極的に出て行けば「すみません」と説明と謝罪をしなければならないので、バッくれています。
いつか嵐が去って行くだろうと思っているんでしょう。今はとりあえず耐えて10年が経ちました。彼女にも深海魚の素質は十分にあります。
――すると、岸田首相、上村外務大臣、そして、小渕優子選挙対策委員長。全員、岸田首相と同じ深度で話せる愉快な仲間たちですね。
佐藤 ウィキペディアに出てくる深海魚がいますよね。深海魚の仲間たち。
――そういえばこの支持率23%ですが、以前この連載で、「(支持率が)30%を割っていて(中略)、プロフェッショナルな観点から政策が進むということです。権力が壊れない程度に支持率が低いというのは、こうして逆に専門性が高まるわけです」と佐藤さんが仰っていました。岸田内閣はさらにプロに徹した政治が出来るということでしょうか?
佐藤 プロの政治ができると思います。支持率がこれだけ低ければ、ますます期待できます。
次回へ続く。次回の配信は10月27日(金)予定です。
作家、元外務省主任分析官。1960年、東京都生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了。『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。『自壊する帝国』(新潮社)で新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞