福島市内中央部の渡利(わたり)中学校のプールサイドから約5m離れたコンクリート上(学校敷地外)で3100cpm(カウント・パー・ミニッツ)を記録するなど、放射能汚染に晒されていた学校プール回りの現状を前回伝えた(http://wpb.shueisha.co.jp/2014/11/25/39573/)。
プール敷地外で測定したデータのため、あくまで参考値ではあるが、渡利中学校を含め、本誌が福島市内の小中学校から26校を抽出して測定した結果、3000cpm台が2校、2000cpm台が3校あり、1000cpm以上の合計は12校に上った。
では、プールサイドの表面汚染はどの程度、子供たちの健康被害に影響するのだろうか。琉球大学教授で放射線を研究する古川雅英氏が指摘する。
「空間線量で毎時1μSv(マイクロシーベルト)を超えなければ、それほど心配しなくても大丈夫ですが、それでも影響はゼロとは言えません。対策として、プールサイド上から出ているのがベータ線であれば、サンダルを履いたりコンクリート上にマットを敷けば、足裏の被曝(ひばく)はかなりカットできます」
そこで、今回の測定でちょっとした実験を行なった。3000cpm超えを記録した場所に、ホームセンターで購入した厚さ5mmのマットを敷き、その上から再測定したのだ。すると、バックグラウンドと変わらないレベルまで数値が下がった。
もしガンマ線ならマットを突き抜けてしまうため、ここまで下がらない。表面汚染の放射線はβ線が中心とみられ、対策にも費用がかからないことがわかったのである。
では、プールサイドが表面汚染されていることに関して、子供たちの保護者はどう思っているのか。
9月5日に市南部にある松川小学校を訪れたとき、小学6年生の水泳記録会が行なわれ、プールが見渡せる車道付近には、見学に来た児童の保護者が並んでいた。車道端の表面汚染は1440cpm。それでも子供たちはプールサイドに座り込み、クラスメイトの泳ぎを見ていた。
何人かの母親に声をかけると、そのうちのひとりがこんなことを言った。
「表面汚染のことは今、初めて聞きました。放射能のことを心配しないといえばウソになりますが、空間線量は知らされているし、学校側がキチンと対策していると信じて子供を預けています。それがいやなら……福島を出ていくしかないですね」
教師の中にも放射能の児童・生徒への影響を心配をしている人たちがいる。だが、学校を管轄する教育委員会が、十分とはいえない文科省の基準を絶対視し、子供の被曝低減対策を取ろうとしないままでは保護者の気持ちを裏切っているといわれても仕方ないだろう。
それでもちゃんと動かない市教委
■市教委は本当に子供の命を守る気があるのか?
この福島市の学校プール表面汚染問題は、ある市民が継続的に市と県の教育委員会に訴えていた。それが実り、市教委はようやく重い腰を上げて、9月から測定に乗り出すことになった。だが対象は7校のみ。しかも測定は市教委の職員が行ない、測定方法や測定結果すら公表されていない。
そこで週プレではあらためて学校プールの表面汚染について聞くため、市教委へ何度か取材を申し込んだが、今度は取材拒否。測定への同行取材も依頼したが同様に断られた。測定結果に関しても一切答えられないと言う。市教委が取材拒否をする理由は、前回の本誌記事の内容にあるという。
「私たちがお話ししたことと違うことを記事で書かれ、それを事実のとらえ方の違いと言われては、それ以上取材には応じられない」(市教委の本田博進・学校保健給食課係長)
だが、市教委の抗議内容は「自分たちは国の基準に沿ってやっていて間違ってはいない」などと言い、責任逃れをしているだけだ。
しかも7月に取材に応じた際、保健体育課の渡邉恒良課長、本田博進係長、教育総務課の阿部勉係長が応対したものの渡邉氏はひと言も発しなかった。取材に応じておきながら責任者は何も話さず、その結果、お話ししたことと違うと抗議してくる。市教委の対応は理解に苦しむ。
前出の古川氏も「基準に収まっているから行政が何もしないというのはおかしな話」と指摘する。
「子供が通う学校ということを考えれば、市や県はバックグラウンドレベル程度に汚染を下げる対策が必要です。WHO(世界保健機関)も『自然な状態であってもなるべく被曝しないようにしましょう』とキャンペーンをしている。まして福島のように人工核種があるのなら被曝を少しでも防ぐのは当然で、実態を考えた措置を取るべきです。将来、がんになったとき、疑惑を持たれることを避けるためにもそうした努力は必要なのです」
関係者がなかなか対応に乗り出さない理由を文科省の基準のせいにしているのなら、学校教育法の12条を読み直すとよい。そこには次のような趣旨の条文がある。
「学校は児童、生徒の健康の保持促進を図るため、保健に必要な措置を講じなくてはならない」
市教委に欠けているのは、まさにこの理念だ。そして、対応が何も取られないせいで無用の被曝をするのは、子供たちなのである。
(取材・文・写真/桐島 瞬)