子供のイジメ問題だけでなく、大人のイジメも社会問題となっている昨今ーー。
前回記事(「これからどう病んでいくか楽しみ…」夫の死までSNSネタにする壮絶“ママ友イジメ”の実態)でも、その深刻な事例を紹介した通り、“ママ友”の間でのイジメがエスカレート、自殺者まで生み出す事態となっている。
そうした現状に「大人の間でのイジメのほうがより性質が悪い部分もある」と警鐘を鳴らすのがTVドラマ化もされた人気漫画『カバチ!!!-カバチタレ!3』の原作者・田島隆氏。作品でママ友イジメを取り上げた回(単行本6巻)も反響を呼んだ。
そもそも社会に出て家庭を持ったイイ大人が、なぜ非道徳的なイジメを助長させてしまうのか。作家としての活躍のみならず、現役の行政書士として相談を受け、周囲の法律家などとも情報交換してきている田島氏は数多くの事例から、その原因は3つあると分析する。
■社会の歪みが助長したママ友いじめ
まず最初はバブル時代以降の「社会構造の変化」だ。
「今では普通のことですが、女性自らが望んでの社会進出というものは、バブル以前はひと握りの人にしかできないことでした。しかし、バブルが弾け経済的・精神的余裕もなくなり、女性が男性の経済力に依存できない状況が当たり前になりつつあります。“兼業主婦”という存在が生まれる一方で、育児や家事などは女性がするものという意識がまだまだ残っており、結果的に女性の負担は増えている場合が多い。それが大きなストレスになっています」
確かに、イクメンやカジメンなどの言葉が定着する中で、全ての男性がそうでなければ、女性から見て「“手伝う”だけで、平等分担ではない」という意見は少なくない。
また、対する専業主婦にもこの女性の社会進出がストレスや不満要素になっていると田島氏は続ける。
「専業主婦の場合は確かに上述の意味での負担は少ないのかもしれませんが、兼業主婦として働いている女性に対して『社会で華々しく活躍している』という憧れも少なくありません。もちろん自分で選んだ人もいますが、諸事情によって働くことができなかった女性は特にそういう思いがあるのでしょう」
専業主婦にとって、兼業主婦はお金にも余裕があるように見えるし、逆に兼業主婦からすれば、働かなくても生活できる専業主婦が羨ましいという両極端な構図ができあがるわけだ。
想像以上に怖い“女の嫉妬”
そして、ふたつ目は「格差」。これも社会構造に関連する。
「人間、自分の身が恵まれていないと感じれば他者との比較をしてしまいがちです。特に、望まずして外で働き、家庭でも働く兼業主婦が他の女性と我が身を比較してしまうのは自然なことです。
そうすると、旦那さんの職業や収入の差はどうかといったことだけでなく、習い事の数など子供をいかに良い環境で育てられているか、住居や車はどうかなど、数え挙げたらキリがないほどの差異が出てきます。それらを比較してママ友の方が恵まれていると格差を感じてしまうのです」
例を挙げれば、「あのママの旦那さんの学歴はウチの旦那と同じレベルなのに上場企業に務めててウチより優雅な生活をしている」、「『世帯収入はウチより少ないはずなのに義両親から援助があって子供にたくさん習い事をさせている」といった、他所と比較しての羨望だ。
「これは社会構造が変化している過渡期だからこそ起きているのだろう」と田島氏は分析する。また、自分よりも圧倒的に優雅な生活をしているママが貴族のように思えてしまい、ママ友間での格付けが生まれる要因になっているともいう。
最後に、総じて女性特有な問題かもしれない原因。それが「嫉妬」だ。
「一般的に言われることですが、男性の嫉妬と女性の嫉妬ではやはり違うように感じます。これまで挙げた要因というのは外的要因で、自分でどうにかすることが困難なものばかり。それだけに『あのママばかり恵まれててずるい』という被害感情になりやすいのだと思います」
つまり、「社会構造の変化」や「格差」が下地となり、相手に対して妬(ねた)みなどの感情に移行してしまうワケだ。
こうした火種が表面化しなければ問題ないはずだが、そこでちょっとした引き金でイジメに繋がるのだと田島氏はいう。
「きっかけとなるのは、ランチの誘いを断った、車の同乗を断ったなど、ほんの些細なことが原因になることも多いようです。それも上記のような不満が下地として根底にあるからなんですね」
いじめる側が持ちがちな“正義感”
こうして生じてしまうイジメだが、子供の間でのものとは違う、大きな問題が存在している。
「そもそも大人の間では『子供じゃないんだから自分でなんとかできるはず。それと比べて大きな問題ではない』と思われがちですが、全く違います。社会で生きていく以上、大人は様々な難題と責任を背負っています。精神的負担はより重いのです。それでなくてもママは小さな子供を育てるという、人生で一番負荷のかかる時期ですから問題の重要さに変わりはありません」
職場での責任や人間関係、育児や場合によっては親の介護など、個々で抱えなければならないことが多いのが大人。心が折れそうになる日々を精一杯に頑張っているところへイジメが加わるのだから、壊れてしまうのも当然だと田島氏。
また、いじめる側に自覚がないという問題もあると指摘する。
「子供が好き嫌いでいじめるのとは違い、前述したように社会構造や格差など外的要因が大きい分、自分の内に湧いて出た『あのママばかり恵まれててずるい』という被害感情が正当だと思いこんでしまってるケースも多いんですね。だから『あのママにはみんなが嫌がる用事を押しつけてもいいよね』、それが拒否されれば『この程度の嫌がらせはしてもいいよね』という発想になってしまうんです。これはいわば“自己マインドコントロール状態”。極端な場合は、非常識な相手を正しているという“正義感”すら持っていることもあります」
■余計な手出しは逆効果 夫ができることは…
残念ながら社会が変わらない以上、このママ友イジメを根絶することは難しい。しかし、被害を大きくしないように対処する方法はあるという。
「一番、イジメのダメージを受けやすいのはママ同士の関係に『依存』してしまっている人。イジメという行為の究極的な目標は相手に精神的ダメージを与える、つまり人格を壊すことにあります。いじめられる側の依存が強ければ、よりダメージは大きくなります。
もし、いじめられてしまったら、サークルでもなんでもいいですから他の集団に所属し、そこで通常の人間関係を築いて“自己の尊厳”を保ってください。そうすることでママ友関係のいびつさを客観的に視ることができ、心の平穏を保ちやすくなるはずです」
イジメで追い詰められると視野が狭くなり、最終的には自己に存在価値がないとまで思い詰めてしまうことがある。これは最悪の結果を招きかねない危険な状態だ。そこから抜け出すためにも外の世界に行くことが大切なのだ。精神的ダメージが相手にないとわかれば、自然とイジメも収まる場合もある。
夫の役目は“最良のカウンセラー”
それでも妻が耐えられなくなったり、被害が深刻化した場合はどうしたらいいのか。田島氏は強者を介入させることを薦める。
「名誉毀損などの犯罪に準ずるレベルにまで被害が深刻化した場合は法律家を介在させるべきです。私たちのような法律家は第三者であり、一般の人からすれば法律を持ち出せる強者。法律で解決することも可能です。
しかし、逆にそうした武器がなければ意味はありません。一番タブーなのは夫がママ友の問題に介入すること。子供の喧嘩に親が出て行くのと同じように、不用意に夫が介入すると、よりイジメ被害が大きくなることも少なくありません」
とはいえ、妻の憔悴(しょうすい)する様子を間近にしたり、辛さを訴えられれば放っておくわけにいかない。夫は無力なのだろうか。
「配偶者だからこそ“頼られる存在”になってください。良好な夫婦関係であれば妻は夫に心を開いているはずです。その辛さを吐き出してもらってください。つまり、妻の心情に共感し寄り添う “最良のカウンセラー”になるのが夫の役目です。そうなることで妻はストレスを大きく減らせます。
女性にはやはり共感が大事。私も女性の相談者の場合、まずは相手が満足するまで話を聞くことで信頼関係を築いています」
大事なのは信頼感を得ることであり、対処や解決に向かうのはそれからだ。田島氏は上記でも触れた「多重所属による自己の尊厳の維持」を薦める。
「例えば、習い事だったりパート務めだったり、なんでもいいんです。夫はママ友以外の人間関係を築ける他の集団に所属させてください。まずは妻の目を外に向けさせるのです。
その際は、妻にとって未経験のジャンルよりも、なるべく得意なジャンルの集団を提案したほうがいいと思います。精神的に参ってしまっているのですから、新しい集団に所属するのは返って負荷がかかります。こういった対処で解決が難しかったり被害が深刻化すれば、法律相談に行くことを薦めたり、より一層、妻のメンタルケアに務めてあげてください」
いきなり行政書士や弁護士の事務所を訪れるのがハードルが高ければ、法務局には人権相談の電話窓口などもある。最悪な悲劇にもなり得るママ友イジメを、女性同士のことだからわからないと目を背けず、まずは夫も妻と一緒になって問題に向き合うことが大切だ。
●田島隆(TAJIMA TAKASHI) 1968年広島県呉市生まれ。1991年から田島海事法務事務所を設立。現在も海事代理士・行政書士として活動している。1999年『カバチタレ!』にて、原作者デビュー。9月23日には『カバチ!!!-カバチタレ!3』9巻(離婚・親権編!)発売予定。
(取材・文/週プレNEWS編集部)