日本の「そうりゅう」級が選ばれれば、4兆円規模の案件を射止めることになるが… 写真提供/海上自衛隊

現代の“海の忍者”とも称される潜水艦は、日米と中国、ロシアなどがひしめき合う極東アジアの軍事情勢のカギを握る存在だ。

前回記事(「中国の空母保有で激化、極東の水面下で潜水艦“軍拡競争”が勃発!」)に続き、今回注目するのはオーストラリア海軍の次期潜水艦問題。日本の潜水艦技術の最初の輸出先候補がそのオーストラリアと報じられるが?

■実力面では日本が圧倒的に優位

現在、アジア・太平洋地域の軍事関係者が大いに注目しているのが、今夏にも決定するとされているオーストラリア海軍の次期潜水艦だ。採用された艦は現在の「コリンズ」級に代わって2020年代から順次、8~12隻が配備され、2070年代まで使われる予定だという。

14年8月には現地紙が「豪海軍が日本の『そうりゅう』級の購入を検討」と報じた。実際には「購入」ではなく、現地のASC非公開株式有限会社によるライセンス生産となる予定だが、もし本当に「そうりゅう」級が選ばれれば、14年4月に日本が武器輸出基準を緩和して以来、最大となる4兆円規模の案件を射止めることになる。

入札に参加するのは日本、ドイツ、フランスの3ヵ国となりそうだが、本命はどこなのか? 元海自潜水艦艦長の山内敏秀氏はこう説明する。

「豪海軍の重要なミッションは、南シナ海からインド洋に至る中国のシーレーン確保戦略(通称“真珠の首飾り”)の拠点を監視・偵察することです。そのため、次期潜水艦には西オーストラリアのパースからマラッカ海峡、アンダマン海、インド洋東部までの広大な海域をカバーする航続距離、高い静粛性、そして武器・弾薬・予備品・食料品などの搭載能力が必要。この要求を満たすのは日本の『そうりゅう』級しかありません」

軍事評論家の菊池征男(まさお)氏も、独仏の弱点をこう指摘する。

「すでに運用実績のある『そうりゅう』級に対し、独仏は実物のないペーパープラン。ドイツは『214型』を拡大するという案ですが、214型はすでに導入しているギリシャ、韓国で問題が多発しています。フランスの案にしても、建造中の原潜の動力機関をディーゼルに置き換えるといいますが、ディーゼルと原子炉では大きさが全く違いますから、カタログ通りの性能を発揮できるとは思えません」

実力面では日本が圧倒的に優位ということらしい。

独仏は「現地雇用」を声高にアピール

しかし、オーストラリアは国産潜水艦の実績がありながら、なぜ海外からの導入を決めたのか。それは、現行の「コリンズ」級が多くの欠点を抱えた失敗作だからだ。

「コリンズ級は設計、建造、運用と、全段階で問題が発生し、6隻中わずか2隻しか稼働していないという有り様です。豪政府も潜水艦を建造できる人材、基礎工業力がないと判断せざるを得なかったのでしょう」(前出・菊池氏)

実際、元豪国防大臣でさえ、「彼ら(建造主体のASC社)にはカヌーづくりさえも安心して任せられない」と、つい本音を漏らしている。

しかし、インドネシアの高速鉄道の入札で日本が中国に敗れたように、必ずしも「いいものが選ばれる」とは限らないのが国際入札の現実。最新の現地報道では、地元建造比率の高い(=現地の雇用が確保される)フランスが最有力との下馬評もある。

「ここで失敗すると、豪海軍はさらに20年も遅れてしまう。同国の潜水艦がきちんとパトロールできるかどうかは南シナ海情勢に直結する問題で、日本にとっても単に“商売”という以上の意味があるのですが…」(菊池氏)

運命は間もなく決する。

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(取材・文/世良光弘&本誌軍事班 協力/山内敏秀)