4月14日に熊本県で発生した大地震。16日未明にはマグニチュード7.3の「本震」が起き、たび重なる余震で被害が拡大している。
2011年の東日本大震災から5年、再びこの国を襲った悲劇を海外メディアはどのように見ているのだろう? 「週プレ外国人記者クラブ」第30回は、フランスの有力紙「ル・モンド」東京特派員、フィリップ・メスメール氏に話を聞いた――。
***
―今回の大地震を、メスメールさんは母国にどのように報道していますか?
メスメール 僕自身は現地には行っていませんが、フランスでも関心の高い鹿児島県川内原発の状況を含め、現時点(4月18日)で6本ほどの原稿をフランスに送りました。
―原発について言うと、日本の主要メディア、特にTVでは稼動中の川内原発を停止すべきか否か、あまり議論されていません。
メスメール 川内原発停止の署名運動が始まったという記事はありましたが、確かにTVではあまりないかもしれませんね。
―川内原発は震源となった断層帯の延長線上にある。もっと議論が活発になってもおかしくないと思いますが…。
メスメール 日本政府は「止める必要はない」と判断し、実際に何も起きていません。政府にとっては「新規制基準はしっかりしている」というアピールにもなるでしょう。
以前もお話しましたが(第24回「復興事業が被災地の障害になっている皮肉な現実」)、フランスも日本同様、原発推進派が比較的主流で、今回の川内原発についても関心は高いけれども稼動停止についての議論は大きくなっていません。ドイツなど脱原発を選択した国では違う反応もあるでしょうが、フランスではないですね。もちろん、僕個人的には危ないと思っていますが。
―では、地震そのものについて伺います。今回の地震が九州地方だったことは意外でしたか?
メスメール 驚きはしませんでした。東日本大震災の時から、日本ではいつどこで大地震が起きてもおかしくないと思っていましたから。しかし、九州で起きる可能性はあまり言及されていなかったので、みんなが驚くのは当然だと思います。
今回、僕が感じているのは、日本は1970年代から「地震予知」研究を強化し、多くの予算と労力を注いできました。東日本大震災以降は特に技術が進歩したと言われていたけれど、結果的に予想外の九州でこれだけの大地震が起きたということは、言ってしまえば、地震はどれだけ努力しても予測できない…はからずも地震予知の限界を示したとも考えられます。
これまで地震予知に費やしてきた予算や労力は適切だったのか? それを別の対策に使ったほうがよかったのではないか? この機会にそういった議論が始まってもいいと思います。
今回の地震で僕が非常に驚いたのは、役所に被害が出て機能しなくなってしまったことです。東日本大震災以降、耐震補強が叫ばれてきた中で、もちろん地方自治体の財政は厳しく十分な予算がなかったのかもしれませんが、非常時の命令・指揮系統の中枢である役所がダメージを被ってしまった。
こういう光景を見て思うのは、「震災が遠くなっている」ということです。東日本大震災の後は、日本人は地震をもっと身近な問題として感じていたはず。しかし、「まさか九州で」という反応や、耐震補強などの備えが足りなかったことは、地震への危機感覚が実際に薄まっていたことの表れではないでしょうか。
経済的負担も大きな問題になってくる
―東日本大震災の時と違い、今回はNHK以外、民放各局はすぐに通常の番組編成に戻しましたね。
メスメール 東北とは規模が違うので、それは理解できます。ただ、5月には伊勢志摩サミットもあるし、東京オリンピックの準備もある。川内原発のことも含めて、今回の震災のインパクトをあまり大きく報じたくないという雰囲気が…圧力とは言わないまでも、それに近い雰囲気があったとしても不思議ではない気がします。
―熊本大地震は、今後の日本にどのような影響を与えると思いますか?
メスメール 何千もの建物が全壊・半壊を含めてなんらかの被害を受け、道路や橋などの公共インフラも大ダメージを受けている。当然、九州の復興が重要な課題になってくるわけですが、ただでさえ遅れている東北の復興にも影響があるだろうし、東京オリンピックの建設需要もある。資材不足、労働力不足、それに伴う復興費用の高騰が懸念されます。東北、九州、オリンピック…経済的負担も大きな問題になってくるのではないでしょうか。
―震度7を記録した地震は、1995年の阪神淡路大震災があり、2004年の新潟県中越地震、2011年の東日本大震災、そして今回の熊本…。大地震の間隔が9年、7年、5年と縮まっていることも気になります。とすると、もしや次は3年後にも…。
メスメール 3年後は2019年。ラグビーW杯の年で、東京オリンピックの前年ですね。
―こんな国でオリンピックをやっていいのでしょうか?
メスメール そんなことを言ったら何もできなくなってしまうので、辞退するべきだとは思いません。しかし、選手村をはじめ競技場の多くは東京湾の埋立地ですし、非常に心配ではありますよね…。
●フィリップ・メスメール 1972年生まれ、フランス・パリ出身。2002年に来日し、夕刊紙「ル・モンド」や雑誌「レクスプレス」の東京特派員として活動している
(取材・文/川喜田 研 撮影/長尾 迪)