瞬間的な眠りに入り交通事故を起こしてしまう可能性もある ※写真はイメージです

過酷な労働環境下での勤務中、もしくは通勤中に交通事故を起こして命を落とす--。

ところが、会社は「本人の責任」と突き放し、過労と事故の因果関係が証明しにくいからと労災認定が下りず、遺族が泣き寝入りするケースが多いという。前編記事(「苛酷な労働環境でもなぜ事業主に責任を問えないのか?」)に続き、決して人ごとではない「過労交通事故死」の実態に迫る!

■運転中に「なぜここを走っているのか…」

過労が居眠りを引き起こしたのか。事故で亡くなってしまった場合、それを証言することができない。だが、それに違いないと話す人がいる。郵便事業株式会社(現・日本郵便)岡山支店の元非正規職員、平山和彦さん(仮名・30代)は、4年間で4回、郵便配達中に接触程度の軽微な交通事故を起こし、08年3月末に解雇された。

いずれも運転中に一瞬意識が飛び、事故に至った。平山さんは「事故は私だけの責任と言えない」と解雇撤回を求める訴訟を同年5月、岡山地裁に起こした。

平山さんは、朝8時から12時まで郵便配達した後、5時間半の中断を置き、17時半から21時半までを働く変則勤務をこなし、残業もしばしば行なっていた。公判では以下のように証言している。

「運転中に、今なぜここを走っているのかと思うことが頻繁にありました。瞬間的な眠りに入っていた可能性はあると思います。変則的な勤務で残業もあったので、疲労蓄積が原因だと思います」

この主張は、地裁では退けられたが、一転、高裁では次のように認められた。

「(変則的な)勤務体系などから疲労やストレスが蓄積し、注意力や集中力を欠く状態に陥っていたと考えられ、事故は会社の業務執行、管理体制にもその一因があった」

そして12年9月14日、最高裁で勝訴が確定し、平山さんは職場復帰を果たした。

前編記事の渡辺さんとAさんの裁判でも、過労と交通事故との因果関係を裁判所がどう判断するかが注目されるところだが、渡辺さんの母、淳子さんは、実名を公表した上で提訴に踏み切った理由をこう語る。

「航太もAさんも20代で亡くなりました。介護や医療や工事の現場でも、若くして疲れて交通事故死されても、すべて自己責任にされて、事業者を訴えられない遺族がたくさんいると思うのです。私が提訴をするのは、航太と同じ若者が同じ目に遭ってほしくないからです」

訴訟の行方も注視したい。

(取材・文/樫田秀樹)