『カリビアンコム』に無修正動画を配信して摘発された制作会社・ピエロが入居しているマンション

1月11日、海外アダルトサイト『カリビアンコム』に無修正のわいせつ動画を配信していた制作会社・ピエロが摘発された。台湾出身の社長(67歳)ら6人が逮捕(わいせつ電磁的記録媒体送信頒布罪)され、波紋を呼んでいる。

この事件が意味するところはふたつ。元AV監督で現在はフリーライターとして活動す荒井禎雄氏がこう話す。

「業界内にまん延していた“海外サーバーなら合法”という安全神話がもはや通用しなくなったこと。もうひとつは、警察による“違法サイト狩り”が2015年を起点として本格化しており、今後それがますます厳しくなること。プロも素人も関係なく、海外無修正サイトのコンテンツ供給源がそのターゲットとなります」

警察の狙いは前編記事で伝えた通り、海外に運営会社を構える無修正サイトに手が出せないなら、“兵糧攻め”で本丸(海外無修正サイト)を落とそうとする点にある。

では、無修正動画を制作する業界は今どんな状況になっているのか?

「今は撮影機材も編集機材も誰でも安く入手できる時代ですから、素人が『FC2』等にわいせつな動画を投稿したり、性行為や自慰行為の有料ライブ配信を行なったり。数年前にジュニアアイドル系の作品に出演していたコが、成人して無修正サイトの作品やライブ配信に出てしているというケースもあります。

『FC2』では、投稿すれば『○分100円』といった形で会員が支払う収益の約5割が制作サイドの取り分となり、『カリビアン』等、その他の有名サイトでは規定の出演料プラス、再生回数による歩合制でギャラが入ってくる契約もある。

今や表AVは違法ダウンロード被害が甚大で食えなくなっているため、『これは実入りが良い』とばかりに、表の業界で食べられなくなった制作会社やプロダクションが参入する動きも目立ちます。彼らは名前を隠してこっそり活動することが多いため、業界内の人間でも誰が何をやっているか全ては把握し切れません」

さらには、こんな新興勢力も台頭しているのだという。

「これまで業界内で見たことのないアウトローな人たちが暗躍するようになりました。彼らの正体を正確につかめているわけではありませんが、その筋の人から『通常のAV撮影だ』と言われてプロダクションが所属女優を派遣、撮影が終わって蓋を開けてみたら実は“海外配信系の無修正でした”といったトラブルがあちこちで起きるようになったんです。

AV業界でプロダクションといえば怒らせたら何が出てくるかわからない“怖い存在”。そこに平気でふっかける輩(やから)が増えているというのは非常に危険な兆候といえます」

無修正サイトを取り締まる警察の本気度

素人や表のAV業界からの新規参入と、暗躍する裏稼業のプロの存在…。この業界は今、“カオス”の状態と化しているのだ。だが、違法な無修正動画の扱いは極めて慎重である。

「海外法人が運営するサイトだからといって、日本国内から無修正のアダルト動画を送信すればその履歴が残り、国内犯として捕まるリスクが高まる。そこで、制作会社はより安全な“無修正動画の扱い方”を確立していきました。そのひとつが『日本国内で無修正動画を撮影・編集』→『データをHDDに入れて海外の事務所に空輸する』→『現地でサーバーにアップする』という手法で、『カリビアン』などの有名サイトではこれが常とう手段になっていますね」

だが、そのビジネスモデルを違法認定する最高裁判例(前編記事参照)が2015年に出たのと前後して、警察当局は本格捜査に乗り出し始めた。

「2015年9月には『FC2』にわいせつ動画を配信していた会員16名が一斉検挙されました。そこに至る警察の捜査は過去に例がないほど大規模なもので、西日本ではサイバー捜査に強い京都府警を主体に三重、島根、山口、高知の5府県警が合同捜査本部を立ち上げ、東日本でも警視庁や神奈川県警が捜査を進めていました。まずは、“ガードの甘い素人”を徹底的に根絶やしにする作戦に出たというわけです」

次にターゲットとされたのはAV業界。こちらもかつてないほど厳しい警察の取締まりによって関係者が一網打尽にされている。

「昨年、海外サイト向けに動画を撮影していたAV業者がプロダクションや女優まで含めて逮捕されるという事件が起きています。それまではいかなる事情があっても『女優は被害者』というお約束が守られており、彼女たちが直接逮捕されるというケースはよほど悪質とみられない限り、稀(まれ)なことだったのですが…。女優の逮捕容疑はほう助。『アナタが出演しなければ、この違法な動画は世に出なかった』という理屈です」

さらに今後、違法な制作会社の摘発は加速度的に進んでいくという。

「大手無修正サイトや『FC2』のようなインフラを“兵糧攻め”にするというのが警察の捜査方針です。逮捕実績を積み上げる中で法律の扱いにも慣れ出し、捜査マニュアルの精度も上がってきている。さらに、摘発した会社から大量の取引データを入手しているでしょうから、今後は芋づる式に摘発が進んでいくことでしょう」

無修正サイトの行く末は…?

動画の供給源である制作会社の摘発ラッシュによって、追い詰められ始めた『カリビアン』や『FC2』…。無修正動画サイトは今後、どうなっていくのだろうか?

「制作会社は取り締まれても、サイトを運営する海外法人に手が出せない状況は続いていますから存続はすると思います。ただ、警察の“兵糧攻め”によって扱える日本人向けのコンテンツ数は減っていき、このままいけば、開店休業中のページがあるだけ…という状態に追い込まれるかもしれません。ただ、違法動画で儲けようとする制作会社の人間もしぶといですから、また捜査の手が及ばない生き残り策をひねり出してくるはず。

その兆候はすでにあって、実は今、国境を渡る制作会社が増え出しています。撮影から編集、動画のアップロードに至るまで、すべての制作過程を海外に移せば国内法は適用されず、捕まらないというわけですね。

彼らの渡航先として多いのが、性器に対する規制が緩いアメリカやオランダです。女優だけ日本のプロダクションから派遣してもらう必要があるので製作費は高くつきますが、確かにそこまでやった会社で摘発されたという事例は聞いたことがありません」

だが、そこにはこんな落とし穴が待っている。

「アメリカやオランダでは、無修正動画を合法的に作れても倫理観が問題になるケースが多いんです。例えば、アメリカでは獣姦はもちろん、女性が苦しんだり泣き叫んだりするような強姦、緊縛シーンはバイオレンス色が強いとされて取締まり対象となることがあります。

約10年前、“ぶっかけ”を世界に広めた日本人AV監督の松本和彦氏がアメリカで開催された世界最大規模のポルノコンベンションに招待され、レッドカーペットを歩いて会場入りしたところ、場内でFBIに拘束されたことがありました。招待されたから行っただけなのに、彼が撮影したぶっかけが違法(暴力行為)と見なされたのです。つまり、アメリカでは顔射シーンも摘発対象になる可能性があるということです」

今後、無修正動画サイトは存続しても、マニアックな作品は視聴できなくなるかもしれない…。

(取材・文/週プレNews編集部)