毎夜自宅前に大嫌いな青魚が並べてあり驚愕! イラスト/マイボール遠藤

昨年9月、東京都目黒区に住む24歳の女性がストーカー被害の末に殺害された。ストーカーが起こす痛ましい事件が後を絶たない現状を受け、12月にストーカー規制法が改正、罰則が強化された。しかし実は今、男を追い詰める“女ストーカー”も急増しているのだ!

■女ストーカーは独創的!?

「ストーカー被害者の約9割は女性ですが、ここ2、3年で男性からのストーカー被害相談が倍増しています」と語るのはストーカー事情に詳しい、私立探偵の阿部泰尚(ひろたか)氏。

「女性へのストレスが増し、“男性化”しつつあるのが急増の理由ではないかと思います。男のストーカー行為は好きな女性をモノにすることが目的です。殺人に至る悲惨なケースもありますが、ほとんどの場合、厳重注意されるとストーカー行為はやみます。一方、女性ストーカーは復讐が目的のケースが多く、ひとりひとり手法が違い、“独創的”なのが特徴です」

例えば、こんな事例がある。新宿・歌舞伎町の人気ホストAさんが、ある夜仕事を終え帰宅したときのこと。マンションのエレベーターを降りると、自分の足元から自室ドアの前まで、何匹ものサバが並べてある異様な光景が目に入ってきた。

実はAさん、青魚が大の苦手で、見ただけで鳥肌が立つほど。一瞬卒倒しそうになりながらも、この日は知人に助けを求めなんとか帰宅したが、翌日にはアジが並べてあったという。こんなことが5夜連続で起こり、Aさんはすっかり憔悴(しょうすい)。犯人に心当たりがなく、たまらず探偵の阿部氏に相談した。

阿部氏は調査を開始。Aさんのマンションを監視していると、犯人はAさんのお店の客であるキャバ嬢だと判明した。女は犯行の理由を「Aさんにひと目惚れしたが、店で冷たくされた。だから大嫌いな青魚を置いて、家から一歩も出られないようにしてやりたかった」と説明した。

Aさんは女と面識はあったが、特に冷たく接した記憶はない。結局、女は謝罪し行為はやんだが、逆恨みもいいところだ。

「ホストは仕事柄ストーカーされやすいともいえますが、普段モテない男性が被害に遭うケースもあるのです」(阿部氏)

隣人女性が浴室の天井裏でしていた行為とは

ひとり暮らしの大学生Bさん(18歳)は、ある日誰かが自分の行動の詳細をSNSにアップしているのを発見して怖くなった。「部屋にいるときも誰かに見られているような気がして落ち着かない」。

彼は阿部氏に調査を依頼。Bさんはイケメンでもなく、恋愛経験も乏しい。もちろん、誰かにつきまとわれる理由も思い当たらない。「盗聴されている疑いもある」とみた阿部氏は、Bさんの自室を徹底捜査した。

すると、ユニットバスの天井部分の換気ファンがついている付近に、何者かが空けた小さな穴を発見した。天井を押し上げ天井裏を覗(のぞ)くと、Bさんの浴室上から隣室の真上まで、まるで道のように毛布が敷き詰めてあった。

「隣人の覗き行為」を確信した阿部氏は後日、Bさんにいつも通りに入浴してもらい、頃合いを見計らって浴室に踏み込み、天井を押し上げた。すると、20代の女性と目が合った。彼女は毛布に横たわりパンツに手を突っ込んで自慰行為をしているではないか。その女は隣室で暮らす26歳の派遣社員で、女優の本●翼に似ていたという。Bさんと面識はあるが交流はなく、アカの他人だった。

女は半年間に及びBさんの浴室を覗き、尾行も繰り返していた。Bさんの浴室での様子に興奮し、覗き行為を繰り返していたという。ストーカー行為に加え住居侵入の疑いもあったが、「有罪になっても罪は軽く、逆恨みされるのはもっと怖い」との理由から、Bさんは両親とも相談の上、警察に届けないことにした。女の動機は「タイプだったから」というごく単純なものだったが、Bさんは心底怯えていた。

昨年12月、ストーカー規制法が改正され、SNSやブログを使用したつきまといが規制対象に加えられた。だが、どこまでやったらストーカーなのかはまだ曖昧だ。毎日メッセージを送り続けても、たまにレスがあれば単なる友人同士のやりとりと見なされる。生活に支障を来す頻度の行為があり、対象者がやめてほしいと意思表示していれば、明確なストーカー行為である

増加するSNSでのつきまとい

■SNSでのストーキング

今回の法改正で新たに規制対象になったSNSでのつきまといも増加している。会社役員のCさん(28歳)は、仕事柄ネットワークづくりにFacebookを活用していた。ある日、自分が見た映画の感想を投稿すると、「どうして誘ってくれなかったの?」とのコメントが見知らぬ女から寄せられ、呆気(あっけ)にとられた。その後も女はCさんのあらゆる投稿に彼女気取りのコメントで反応。よくよく思い出してみると、その女(35歳独身)とは、どこかの会合で名刺交換をしたことはあったが、それ以上の面識はなかった。

恐る恐るその女のアカウントを覗いてみると、なんと毎日Cさんのために“祈りの歌”や“詩”が捧げてあり、それを見たCさんは背筋が寒くなった。事情を知らない友人たちは、当然ふたりを恋人関係だと思い始める。なんとかしなくてはと焦ったCさんは意を決し、直接女に「迷惑なのでやめて」と告げた。すると女は悪びれることなく「私たちはソウルメイトだと思う。では友達から始めましょう」と言ったという。

それ以降、直接的な行為はやんだが、女はCさんの自宅近くに引っ越し、行動を監視していることがわかっている。

「ストーカー行為をする女は妄想癖がある人が多い。こうなると相手を刺激せず、他に興味が移るのを待つしか対処法がありません」(阿部氏)

たとえ一方的な迷惑行為でも、この程度のことで警察は動いてくれない。相手が女性だと強く言えないところが、男の弱みでもある。

◆続編⇒急増する“女ストーカー”の7割は元カノ! レイプ犯に仕立て上げられたら…男の常識は通用しない?

●ナビゲーター 阿部泰尚(あべ・ひろたか)T.I.U.総合探偵社代表。ストーカー被害者の立場に立ち、これまでに300件に上るストーカー事案の調査を行なう。業界では「ストーカー撃退王」の異名を取る

(取材・文/桑原和久)