幕張メッセや大型ショッピングモールでは盗難被害が報告されている

盗んだ高級ロードバイクのフレームを切り刻み、「バラバラ写真」を盗難情報サイトの掲示板に投稿する―。そんな奇怪にして、被害者感情を逆なでするような事件が、昨年末から今年にかけて多発している。いったい、どんな人物がなんの目的で……? 前編記事に続き犯人像に迫る!!

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■犯人が内包する加虐性、冷淡さ

盗難情報サイトの投稿などから、盗まれた場所は千葉県千葉市にある「幕張メッセ」や、その周辺地域であることが確認できた。自らもロードバイクが趣味で、自転車の盗難情報を定期的にウオッチし、SNSなどで警鐘を鳴らしているA氏が語る。

「幕張メッセや近隣の大型ショッピングモールでは、これまでもロードバイクの盗難被害がたびたび報告されていました。こうした場所は一度駐輪したら持ち主がしばらく戻ってこないと思われますから、犯人にとって盗むのはたやすいことでしょう。今回写真をアップロードした人物がこれまでどのくらいの自転車を盗んできたのかはわかりませんが、この辺りに網を張り、ロードバイクを不用意に止める愛好家を狙っているのではないでしょうか」

そこで取材班は、今回の事件の被害者であり、買ったばかりのロードバイクをまさにこのエリアで盗まれたというBさんに接触し、話を聞くことができた。Bさんは競技用に購入したロードバイクを街乗りや買い物で利用していた。そして運悪く、そのロードバイクが犯人の目に留まってしまったのだ。

「当日は幕張メッセで行なわれているイベントを見るため、朝早く会場付近に着いて駐輪しました。ほかにも自転車がたくさん止まっていたし、まさか盗まれるなんて思ってもみなかったんです。

でも夕方戻ってきて、止めたはずのロードバイクが見当たらない。盗まれたことに気づき、すぐに警察に盗難届を出し、自分の足で近所を回ったりしたんですが、見つけることはできませんでした。自分の愛車がバラバラにされていることを知ったのは、盗難情報を書き込んだ掲示板に寄せてくれた別の方のコメントがきっかけです。本当にショックでしたね」

Bさんは今回の被害に遭うまで、現在、ロードバイク盗難が多発していること、幕張メッセ周辺が特に危険な場所であることを知らなかったという。今、街で走っているロードバイクの持ち主の多くも、Bさん同様、高い防犯意識を持ち合わせている人は少ないのかもしれない。

「競技を続けるために、すでに新しいロードバイクを買いましたが、今はもう10秒でも目を離すのが怖いです。ボクのような思いをする人がこれ以上出ないためにも、盗難被害がとても数多いことをみんなに知ってもらいたいですし、犯人が早期に捕まることを願っています」(Bさん)

犯人はなぜ解体したフレームの写真を次々と投稿するのか?

ところで、盗んでパーツをバラし、換金するという金銭目的はわかるにしても、犯人はなぜあえて解体したフレームの写真を次々と投稿する行為に走っているのだろうか。

犯罪者の心理に詳しい、福岡大学人文学部の大上渉(おおうえ・わたる)准教授は、次のように分析する。

「今回の手口は、遺体をバラバラにするような猟奇的殺人事件と共通する点も指摘できます。日本のバラバラ殺人では、証拠隠滅と遺体運搬の両面から遺体を解体します。今回、写真をアップロードした人物が犯人だとすれば、やはり足のつきやすいフレームは解体し、不法投棄するにしても持ち運びやすい形にしたということでしょう。

また、猟奇的殺人を行なう犯罪者には、被害者が身につけていた衣服やアクセサリーなどを“記念品”としてコレクションし、それを眺めて犯行時の快感や興奮を思い出すといった嗜好(しこう)がまま見られます。この人物も、バラバラのフレームの写真を眺め返して犯行の余韻(よいん)に浸っているのかもしれません」

さらに大上氏が続ける。

「バラバラ写真の多くは、日付がわかるように新聞の1面を広げ、その中央に、同じように切り分けられたフレームを置いて撮影されています。つまり、毎回ほぼ同じ撮り方をしています。また、ひとつひとつの投稿には、フレームの重さも記載している。この人物は規則性や正確性を好む性格でしょう。そして、被害者が目にする可能性のあるサイトにバラバラの画像をアップする行為から、被害者の反応を楽しむ、加虐的な性質や冷淡さも感じます」

犯人の生活環境も、ある程度は推察できる。

「フレームの解体、切断という行為をバレずに行なうには、ひとり暮らしのほうが好都合です。犯人は若くても20代後半、おそらく30代から40代の男性だと考えます。犯人は金銭的な利益を求め、ロードバイクを盗んでいる。ただ、加虐的で冷淡な性質も手伝い、おまえたちが騒いでる盗難は、実は俺がやったんだと誇示するため、あえて被害者が目にするであろう掲示板に次々と写真をアップし始めたのではないかと思います」(大上氏)

フレームがバラバラにされたロードバイクの多くが、千葉県千葉市の「幕張メッセ」周辺やショッピングモールで盗まれている。平日は人通りも少ない

掲示板の書き込みから犯人の特定はできるのか?

■書き込みから犯人を特定することは困難

では今回の犯行に、警察はどう対応しているのか。千葉県警察本部に尋ねてみた。

「盗んだ自転車を解体し、掲示板に投稿するという行為については把握しています。個々の事案については、自転車盗難事件として、所轄が適正に捜査を進めています。掲示板への書き込みについても、管理者にIPアドレスの開示を求めるなどの方法で、対応できると考えています」

しかし、そうした掲示板の書き込みから犯人を特定することは難しいだろうと、ITジャーナリストの三上洋(みかみ・よう)氏は指摘する。

「警察からの要請があれば、掲示板管理者は投稿元のIPアドレスを開示するでしょう。ただし、この手の犯罪者はたいてい、書き込みにIPアドレスからの追跡を困難にする『To-r(トーア)』という特殊なソフトウエアを使っています。国家レベルの犯罪であれば、警察が総力を挙げて犯人を追いつめることが可能かもしれませんが、こうした自転車の窃盗事件では、そこまですることは考えにくいでしょうね」

つまり、高級なロードバイクが防犯意識の乏しい持ち主によって、無防備な状態で駐輪されているような今の状態が続く限り、犯人と思われる人物はこれからも窃盗を続けて金銭的欲望を満たし、心の傷をえぐられる被害者は後を絶たないということになる。

もちろん、今回取り上げた事件は、ロードバイクの盗難全体から見れば氷山の一角にすぎない。被害者をあざ笑う犯人が一刻も早く捕まることを願うばかりだが、「オレは平気」と考えているロード愛好家のあなたがターゲットにされてしまう可能性がないわけではない。今回の事件を契機に、盗難への意識を見直してみてはいかがだろうか?

(取材・文/植村祐介 撮影/岡倉禎志)