探検家・高橋大輔氏率いる東京ミステリー探検隊が、“初代東京都知事”が眠る謎めいた地へと足を踏み込む!

徳川家康が江戸幕府を開く以前に、東京を支配した者が3人いる――。

歴代の統治者たちに共通するのは、東京にかつて存在した「5つの半島」を掌握していたこと。彼らは皆、東京湾に突き出した台東、文京、千代田、港、品川の5半島を支配し、発展させ、そして去っていった。そこには栄枯盛衰のどんなドラマがあったのか。

ロビンソン・クルーソーのモデルとなった人物の住居跡を発見し、世界を騒然とさせた探検家・高橋大輔氏が、前編に続き歴史の陰に隠された東京5半島の謎に挑む【東京ミステリーツアー(1)後編】

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2016年12月。ついに5人のメンバーが都営三田線芝公園駅に集結した。隊長のわたしと作戦参謀コミネ氏。そして、新たに加わった3人の仲間。カメラマンは南米の密林で部族と対峙(たいじ)してきたアマゾン山口だ。たとえ大蛇が樹上から落ちてきても、大河にピラニアの魚影を見てもうろたえない。いやむしろ、嬉々として近づいていくタイプだ。わたしは試しに苦手なものを聞いてみた。

「満員電車ってとこですか」

満員の車内で探検なんかしない。問題なし。写真偵察員として採用だ。

金庫番としてコミネ参謀が探してきたのはオッギーという若手編集者。新種のクジラみたいな未確認生物を探し回ったことはあるらしいが、金庫を持ったままあちこち行かれては困る。わたしは尋ねた。

「決済が必要になったらどうすればいい?」

「魔法が使えまぁす」

「じゃあ呪文の言葉は?」

「領収書お願いしまぁす」

オッギーは呪文を覚えたてだというが、まあ、なんとかなるだろう。

ミネ参謀が最後に紹介したのは図書館情報学を専門にする女子大生だった。リサーチャーの姫だという。旧式の男くさい探検隊には見られない清楚(せいそ)なお嬢タイプだ。大歓迎と言いたいところだが、山中でへばられては困る。わたしは質問を投げかけた。

東京ミステリー探検隊。(右から)カメラマンのアマゾン山口、高橋隊長、コミネ参謀、リサーチャーの姫。魔法使いのオッギーはいつの間にか姿を消していたため不在

いざ、芝丸山古墳へ!

「山には登る?」

「いえ、特には」

「じゃあ、嫌いなものは?」

「虫とか食べられません」

探検だからといって別に虫を食らう訳ではないが、大丈夫なのか……。

「姫っていうのは?」

「生まれが海賊頭領の家系なんです。それで姫と」

「えっ、もしかしてあの有名な村上海賊の娘!?」

山や虫に縁遠いのは海賊の末裔(まつえい)という何よりの証(あかし)だ。われわれはいずれ海賊の財宝を求めて旅に出ることもあろう。メンバーに加えておいたら大化けするかもしれない。

■東京ミステリー探検隊、いざ、芝丸山古墳へ!

かくして東京ミステリー探検隊は“初代東京都知事”が眠る、謎めいた地へと足を踏み込んだ。折しも天気は小雨。われわれの前途に見上げるほどの小丘が現れた。芝丸山古墳は現在、芝公園として都民の憩いの場となっている。

古墳マニアのコミネ参謀によれば、当時は墳墓の斜面に白い石が敷き詰められていたそうだ。太陽や月の光を浴びると、白く荘厳に輝いて見えたという。また、前方後円墳には正しい上り方があった。死者が埋葬された円形部に向かい、方形部の先端から上がるらしい。時代が下ると方形部と円形部が接するくびれ部分から上ったようだ。

われわれは上り口に当たる前方部の先端を探した。すると遊歩道がそこから丘上に通じている。道はくびれ部分にも通じ、そこには稲荷社が祀(まつ)られている。驚いた。意識しなければ都市公園の丘や遊歩道にしか見えないが、道は古墳時代のしきたりに従って残されている。被葬者の祖霊に敬意を払っているかのようだ。

古墳の中腹、くびれ部分に鎮座する圓山隨身稲荷大明神。徳川家菩提寺・増上寺の裏鬼門に位置する

周囲点在する円墳から大刀や管玉、人骨が

われわれは首長が眠る棺(ひつぎ)が埋められた後円部にたどり着いた。後円部の直径は64mもある。そこに何やらいわくありげな巨石が置かれていた。表面に「瓢(ひさご)形大古墳」と彫られている。前方後円墳のことだろう。明治時代に調査した人類学者、坪井正五郎が建碑したものだ。

彼の報告書『東京市芝公園古墳實査の結果1、2、3』(1900年)によれば、瓢形大古墳からは何も発掘されなかったが、周囲に点在する11もの円墳から大刀や管玉、人骨などが出土したという。人骨! それはまさに首長、あるいは血縁者のご遺骨かもしれない。

明治時代に調査を行なった人類学者、坪井正五郎の調査結果報告書。手書きの地図を見ながら、古墳周辺の位置関係を把握する

わたしはポケットからGPS受信機を取り出し、電源を入れた。芝丸山古墳の標高は13mをマークした。北東に位置する港区役所は海抜3mほどなので、古墳がある区域はいきなり10mも高くなっている。そこは低地上に隆起した丘陵地だとわかる。

緯度、経度ばかりか高度、到達日時が記録できるGPS。現代の探検家は現場に探検旗を立てるがごとく、GPS受信機のボタンを押すのだ

ところが、地図を確認して衝撃を受けた。古墳の東南斜面に貝塚があるのだ。丸山貝塚と呼ばれ、縄文時代後期にさかのぼる。『増上寺とその周辺』(東京都港区教育委員会)によれば、アサリやハマグリ、サザエなど海水産の貝殻が見つかっている。つまり古代には、この地の周辺まで海が接近していたことになる。

当時の風景を知りたい。芝丸山古墳と東京湾の位置関係を俯瞰(ふかん)できる高台に立てば、手がかりをつかめないか。

「あれしかないであります」

コミネ参謀は古墳に接する高層ホテルを指差した。上空にそびえ立つ、ザ・プリンスパークタワー東京がわれわれを覗(のぞ)き込んでいる―。

週刊プレイボーイ19&20合併号(4月24日発売)では、「東京ミステリーツアー」2ndシーズンがスタート! 900年前に“東京”を築いた江戸一族の正体に迫る!

(取材協力/小峯隆生 彼島瑞生 撮影/山口大志[やまぐちひろし])

●高橋大輔(たかはし・だいすけ)1966年生まれ、秋田市出身。「物語を旅する」をテーマに、世界各地に伝わる神話や伝説の背景を探るべく、旅を重ねている。2005年、米国のナショナル ジオグラフィック協会から支援を受け、ロビンソン・クルーソーのモデルとなった人物の住居跡を発見。ニューヨークの探検家クラブ、ロンドンの王立地理学協会のフェロー会員でもある