
ただでさえ疎(うと)まれた存在なのに、この夏のヒアリ騒動やダニ被害などを経て、さらに評判を落とした“嫌われ虫”たち。長年、彼らを追い続ける研究者たちが、そのマイナスイメージをガラッと変える生態について語る――。ダニ編に続き、第2回はアリ。
著書に『日本産アリ類図鑑』(朝倉書店)があり、東京大学農学部などで講師を務める寺山守氏に聞いた。
―この夏、全国各地の港湾部でヒアリが発見されましたね。
寺山 アリを研究して40年になりますが、最も恐れていた事態が起きてしまった。ヒアリは毒性が強く、毒針で刺されるとアレルギー反応によって死に至ることもある。それだけでなく、日本の在来種のアリやほかの昆虫を絶滅させる恐れのある、強力な生態系攪乱(かくらん)者でもあるんです。
-怖いですね。アリを見つけては殺虫剤を撒き散らすような人も少なくないようで…。
寺山 それ、逆効果です。
―そうなんですか?
寺山 ヒアリの侵入はまだまだ港湾部にとどまる初期段階。数も少ないこの時期なら、在来種のアリがヒアリを集団で撃退してくれる。なので、ヒアリがいる可能性の低い都市部で殺虫剤をまき散らす行為は、その“味方”を殺しているのと同じなんです。
―でもアリって基本、人間にとって迷惑な存在ですよね。家の柱をかじるシロアリとか。
寺山 まあ、シロアリは分類学的には『ゴキブリ』なんですがね。
―ええっ?
寺山 アリはハチから進化したハチ目の一員ですが、シロアリはゴキブリ類に最も類縁が近く、近年の遺伝子研究でもゴキブリのあるグループから進化したことがハッキリ示されています。
―それは知らなかった…。
寺山 アリを害虫扱いする人は多いですが、日本の在来種で人に大きな危害を加えるアリは存在しません。それに、木の葉をせっせと運んできては巣内でキノコを栽培し、これを主食にのんびり暮らす“農業アリ(ハキリアリ)”なんてのもいますよ。
―へぇ~。
寺山 現在、日本では302種のアリが確認されているんですが、そのうち約100種は私が発見し、名前をつけました。
―新種のアリを100種も!
寺山 新種の探索は私のライフワーク。思えば約35年前、未知のアリを求めて単身で台湾の奥地に行った際、具合が悪くなって山道で倒れている私を介抱してくれたのが現在の妻との出会いでした。その妻からは、論文の掲載費がかさむので『“新種製造業”なんてもうやめなさい!』と言われ続けています。
―そ、そうでしたか。ところで、アリがこの世に誕生したのはいつ頃なんでしょうか?
寺山 ジュラ紀(約2億年前)の化石からその存在が確認されています。つまり、恐竜たちがアリを踏んづけていたと…(笑)。
★続編⇒ヒアリの恐怖も吹っ飛ぶ!? その道40年の研究者が明かすオスアリの“悲しい結末”
(取材・構成/興山英雄)
ヒアリの巣は山型であることが特徴。大型なものだと“標高”50㎝に及ぶ