“嫌われ虫”をポジティブに語ろうシリーズ第二弾はダニ編に続いてアリ! 40年に及ぶ研究人生のなかで国内に生息する新種のアリを100種も発見したという寺山守氏(東京大学農学部講師)が語り部である。
前回記事では寺山氏がヒアリに対する住民の過剰反応に警鐘を鳴らしつつ、さらに話は展開してアリが地球上に誕生したのはなんとジュラ紀(約2億年前)で、「つまり、恐竜たちがアリを踏んづけていた…」ことが判明(?)。想像を絶する長さのアリの歴史に驚愕したが…。
―アリって人間の“大先輩”だったんですね。現在はこの地球上にどれくらい生息するものなんでしょうか?
寺山 地球上の森林には、1㎡当たりでおよそ1千匹のアリがいます。日本の森林面積が約2500万haとすると、森林部分に生息するアリだけでも250兆匹はいる計算になる。当然、世界で見れば“京”の単位に及びます。
―恐竜は滅びたのに、なぜアリは滅びなかったのでしょうか?
寺山 なんとしても子孫を後世に残すんだという繁殖力の強靱(きょうじん)さと、まるでロボットのように精密でシステマチックな“社会性昆虫”としての生態がアリを繁栄させました。その点にこそ彼らの神秘が隠されています。
―といいますと?
寺山 結婚飛行はご存じですか?
―いえ、知らないです。
寺山 アリは繁殖の季節になると、複数の巣から女王アリとオスが一斉に飛び立ち、空中で(種によっては地上で)交尾をする。これが結婚飛行です。
―というか、アリって普通に飛ぶんだ!?
寺山 知らなかったの! 女王アリだけでなく、オスも羽を持っています。南米には羽もないのに木から木へとモモンガのように滑空する“空飛ぶアリ(ナベブタアリ)”なんてのもいてね。
―ヤバいですね。
寺山 しかし、女王アリは交尾を終えて地面に降りると自ら羽を切り落とし、巣穴を掘って、卵を産みます。日本でも普通に見られるクロヤマアリの場合、産卵後1ヵ月で働きアリがふ化し、数年かけて数千~1万個体まで増え、巨大なコロニーを形成する。女王アリは一度の交尾でオスからもらった精子を体内に貯蔵し、長期にわたって産卵し続けることができます。
女王アリにとっては“精子の運び屋”
―長期って、具体的には?
寺山 海外で確認されている女王アリの長寿命記録は30年。日本では私の知る限り、クロオオアリで10年という事例がある。
―長生きだなぁ。オスのほうは交尾後、何をするんですか?
寺山 死にます。
―マジですか…。
寺山 短命で、交尾後に死ぬんです。なので交尾前から、見るからに『栄養が少ないなぁ』とわかるほどホッソリしてるんです。
―悲しすぎる…。
寺山 アリの世界は、完全に女社会です。オスは女王アリにとっては産卵のための道具、“精子の運び屋”でしかありません。
★後編⇒殺人アリ、自爆アリ、奴隷アリ、スパイアリ…あらゆる手段で家族を死守する仁義なきアリの生態
(取材・構成/興山英雄)