学生時代から25年間、蚊の研究を続ける白井良和氏。手に持つのは蚊の捕獲器 学生時代から25年間、蚊の研究を続ける白井良和氏。手に持つのは蚊の捕獲器

口器で刺すことで人間に痒みをもたらし、プーンという羽音で眠りを妨げるだけでなく、時に生死に関わる感染症を媒介することもある“嫌われ虫”の代表、蚊。しかし、その生態や体の細部に目を凝らせば、マイナスイメージを払しょくする別の顔が見えてくる。

前編に引き続き、共著に『蚊のはなし』(朝倉書店)がある害虫防除技術研究所の白井良和代表が蚊の生態をポジティブに語り倒す!

―蚊は地球上にいつ頃出現したのでしょうか?

白井 最も古い蚊の化石は9千万年前の白亜紀の地層で発見されました。その頃、蚊は恐竜の血を吸っていたのかもしれません。現在は世界に約3500種、日本には112種が生息しています。個体数にすれば日本だけでも1京匹を優に超えますね。

―蚊って夏場はホント、そこらじゅうにいますもんね。

白井 実は、寒冷地ほど個体数が桁違いに多く、米国アラスカ州では蚊の集団がとぐろを巻く“蚊柱”が10万匹規模で作られることもあり、これは大群で襲ってこられたら人間が“失血死”してしまうような規模。手で1回叩いて殺した蚊の世界記録(非公式)は78匹とされています。

―そもそも、蚊はなぜ血を吸うんでしょうか?

白井 血液を栄養にして卵を作るから。なのでオスは刺しません。

―血液であれば、人間のものである必要はないんですか?

白井 野鳥の血が大好物な蚊や、蛙(両生類)の血を好む蚊もいますが、人間の血に対する嗜好性が強い蚊もいます。日本にいる112種のうち、およそ半数が人間を吸血する蚊です。

―なぜそれほどまでに人間の血を好むんでしょうか…。

白井 血液中に含まれるアミノ酸が卵を成長させるのですが、進化の過程で、『人間の血はアミノ酸が豊富で産卵に適している』というのがバレてしまったからなんじゃないかと…(苦笑)。実際、吸血をせずに卵を育てるチカイエカの産卵数がせいぜい数十個なのに対して、人間を吸血するアカイエカの産卵数は300個に達することがあります。

―でも人間を吸血しにいけば手でピシャッと叩かれますよ。

白井 だからこそ、蚊は人間にバレずにコソッと吸血する能力に非常に長けているんです。

―どういうことですか?

白井 蚊は注射針のようなものを刺して血を吸うイメージがあるでしょうが、そんなに単純ではない。蚊の口器は血液を通すストロー状の上唇、唾液を送る小咽頭、皮膚を切り裂く2本の小顎など6つのパーツから成り、普段はこれら口器全体を筒状の下唇に収納して保護しています。

―精巧な造りですね。

白井 実は、蚊の口器は“痛くない注射針”として医療に応用されるほどハイスペックな性能を持っているんですよ。

★続編⇒医療用注射器にも応用!研究者が明かす「蚊が人間にバレずにコソッと吸血する技術」

(取材・文/興山英雄)

 血を吸って腹が膨れた状態のアカイエカ。主に住宅地に生息する蚊で、赤褐色のボディが特徴。活動時間は主に夜型 血を吸って腹が膨れた状態のアカイエカ。主に住宅地に生息する蚊で、赤褐色のボディが特徴。活動時間は主に夜型